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2013年9月17日火曜日

ジジェクの愛の定義

Filozof Žižek je ujel krasotico

--I’ve seen those photos. For someone who describes love as violent and unnecessary, you seem to have pulled off quite the affair. Your wife [Argentinian model Analia Hounie] wore a long white dress and held a bouquet. How traditional! 

Yes, but did you notice something? If you look at the photos, you can see that I am not happy. Even my eyes are closed. It’s a psychotic escape. This is not happening. I’m not really here.

I planted some jokes in my wedding. Like, the organizers asked me to select music. So when I approached wife at the ceremony, they played the second movement from Shostakovich’s 10th Symphony, which is usually known as the “portrait of Stalin.” And then when we embraced, the music that they played was Schubert’s “Death and the Maiden.” I enjoyed this in a childish way! But marriage was all a nightmare and so on and so on.

ーーーーSlavoj Zizek: I am not the world’s hippest philosopher!







 …………


When were you happiest?
A few times when I looked forward to a happy moment or remembered it - never when it was happening.

What is your greatest fear?
To awaken after death - that's why I want to be burned immediately.

What is your earliest memory?
My mother naked. Disgusting.

Which living person do you most admire, and why?
Jean-Bertrand Aristide, the twice-deposed president of Haiti. He is a model of what can be done for the people even in a desperate situation.

What is the trait you most deplore in yourself?
Indifference to the plights of others.

What is the trait you most deplore in others?
Their sleazy readiness to offer me help when I don't need or want it.

What was your most embarrassing moment?
Standing naked in front of a woman before making love.

Aside from a property, what's the most expensive thing you've bought?
The new German edition of the collected works of Hegel.

What is your most treasured possession?
See the previous answer.

What makes you depressed?
Seeing stupid people happy.

What do you most dislike about your appearance?
That it makes me appear the way I really am.

What is your most unappealing habit?
The ridiculously excessive tics of my hands while I talk.

What would be your fancy dress costume of choice?
A mask of myself on my face, so people would think I am not myself but someone pretending to be me.

What is your guiltiest pleasure?
Watching embarrassingly pathetic movies such as The Sound Of Music.

What do you owe your parents?
Nothing, I hope. I didn't spend a minute bemoaning their death.

To whom would you most like to say sorry, and why?
To my sons, for not being a good enough father.

What does love feel like?
Like a great misfortune, a monstrous parasite, a permanent state of emergency that ruins all small pleasures.

What or who is the love of your life?
Philosophy. I secretly think reality exists so we can speculate about it.

What is your favourite smell?
Nature in decay, like rotten trees.

Have you ever said 'I love you' and not meant it?
All the time. When I really love someone, I can only show it by making aggressive and bad-taste remarks.

Which living person do you most despise, and why?
Medical doctors who assist torturers.

What is the worst job you've done?
Teaching. I hate students, they are (as all people) mostly stupid and boring.

What has been your biggest disappointment?
What Alain Badiou calls the 'obscure disaster' of the 20th century: the catastrophic failure of communism.

If you could edit your past, what would you change?
My birth. I agree with Sophocles: the greatest luck is not to have been born - but, as the joke goes on, very few people succeed in it.

If you could go back in time, where would you go?
To Germany in the early 19th century, to follow a university course by Hegel.
How do you relax?
Listening again and again to Wagner.

How often do you have sex?
It depends what one means by sex. If it's the usual masturbation with a living partner, I try not to have it at all.

What is the closest you've come to death?
When I had a mild heart attack. I started to hate my body: it refused to do its duty to serve me blindly.

What single thing would improve the quality of your life?
To avoid senility.

What do you consider your greatest achievement?
The chapters where I develop what I think is a good interpretation of Hegel.

What is the most important lesson life has taught you?
That life is a stupid, meaningless thing that has nothing to teach you.

Tell us a secret.
Communism will win.


Q&A Slavoj Žižek, professor and writer

Interview by Rosanna Greenstreet
The Guardian, Saturday 9 August 2008


…………


和訳をしている人がいる(冒頭の訳以外は、名訳だ)。


――これまでで一番幸せだったのはどんな時ですか?
▲時々、幸せになることを期待したり、そうだったことがあるか思い出そうとしたりするんだが、一度もそういう時はないんだ。

―― 一番恐れていることは何ですか?
★埋葬された後で蘇生することだね。それが私がさっさと火葬してもらいたい理由さ。

――あなたの最初の記憶は何ですか?
★裸の母。実に嫌な感じだった。

――あなたが一番尊敬する存命中の人物とその理由は?
★ジャン=ベルトラン・アリスティド。二度も退位させられたハイチの大統領だ。彼は、絶望的な状況においてさえ、民衆のために何ができるのかのモデルだ。

――あなたが一番残念に思っている自分の特性は?
★他人の苦境への無関心。

――あなたが一番残念に思っている他人の特性は?
★私が必要でもないし、望んでもいない時に、安っぽい助けを申し出られること。

――これまでで一番恥ずかしかった瞬間は?
★セックスの前に、女性の真ん前に素っ裸で立ってた時。

――資産を除いて、あなたの一番高価な買い物とは?
★新しいドイツ版のヘーゲル全集。

――あなたの一番の秘蔵品は?
★前の回答を見てくれ。

――あなたを落ち込ませることとは?
★アホな連中が幸せそうにしているのを見ること。

――自分の外見についてあなたが一番嫌いなことは?
★それが本当の自分であるかのように見えること。

――あなたの一番魅力的でない癖とは?
★話している時の珍妙なまでに過剰な手の動き。

――仮装服として何を選びますか?
★私の顔に、私の顔の仮面を着ける。そしたら、みんな私の振りをしている誰かで、私ではないと思うだろ。

―― 一番やましい楽しみとは?
★『サウンド・オブ・ミュージック』みたいな、困惑するほど感傷的な映画を観ること。

――あなたのご両親に恩義を感じていることは?
★何もない。そうだといいと思う。死んだ時にもこれっぽっちも嘆いたりしなかった。

――誰に対して一番謝りたいですか、またその理由は?
★息子たちに対して。充分に良い父親でないことを。

――愛というものをどういう風に感じていますか?
★とんでもない不運、恐るべき寄生体、全てのささやかな楽しみを台無しにする永続化された緊急事態、そういったもの。

――あなたが人生をかけて愛している物もしくは人とは?
★哲学。私は、リアリティが実在し私たちはそれを推察することができると、密かに考えている。

――あなたが一番好きな匂いは?
★腐敗した自然の匂い。腐った樹木のような。

――本気でないのに「愛してる」と言ったことがありますか?
★いつもだ。本気で誰かを愛してる時には、攻撃的で後味の悪い発言をしてしまうんだ。

――あなたが一番軽蔑している存命中の人物とその理由は?
★拷問の手助けをしている医者たち。

――これまでで一番最悪だった仕事は?
★教師。私は生徒たちが嫌いだ。彼らのほとんどは、(全ての人々がそうであるように)アホだし退屈だ。

――これまでで一番失望したことは?
★アラン・バディウが20世紀の「不明瞭な惨事」と呼んだもの。共産主義の悲劇的な失敗。

――もし過去を編集することができるなら、どこを変えますか?
★自分が生まれたことを。私はソフォクレスに同意する。「一番の幸運は生まれないことだ」。この冗談はこう続くんだ。「ただ、それを成し遂げるのはごく少数だ」。

――過去に行けるとしたら、どこに行きますか?
★19世紀初期のドイツに。大学でヘーゲルの講義を受講するために。

――あなたのリラックス法は?
★繰り返し繰り返しワーグナーを聴くこと。

――どれくらいの頻度でセックスをしますか?
★「セックス」という言葉で何を意味するかによるね。もし、それが普通そうであるように、生きているパートナー相手のマスターベーションを意味するのなら、全くそれをしないように努めている。

――これまでで一番死に近づいた時は?
★軽度の心臓発作を起こした時。自分の身体が嫌いになったよ。そいつは私に盲目的に仕えるという義務を拒否したんだ。

――人生を改善するために一つだけ何かするとすれば?
★老衰を回避すること。

――あなたの一番の業績は何だとお考えですか?
★私がやったヘーゲルの良い解釈だと考えている数章。

――人生で学んだ一番のことは?
★人生とは、何も学ぶことのない、馬鹿げた意味のない代物だということ。

――何か一つ秘密を教えてください。
★共産主義は勝利するよ。


…………

《―― 一番やましい楽しみとは?
『サウンド・オブ・ミュージック』みたいな、困惑するほど感傷的な映画を観ること。》

サウンド・オブ・ミュージックではないが、ジャック・ドゥミの「シェルブールの雨傘」にいまだ耽溺するとき、それなりにやましい気分にならないではないな(昨日の投稿で、バルトを引用しつつ、”Je-t-aime”を貶したから、ここでは称揚しておくよ)。








ーーーもっともこの映画は、【映画DB①】蓮實重彦氏のベスト141のなかほどに位置しているのだな。


さて、これらのジジェクの応答のいくつかは、次の文の「ニーチェ」に「ジジェク」を代入して読む必要があるだろう。

ニーチェを読むと、彼はこのキリスト教的美徳〔すなわち同情〕を口を極めて排撃しているけれど、それはつまりは、彼がどんなに自分の中のその能力のために悩み苦しんだかの証拠に他ならない。( 吉田秀和――神崎繁『ニーチェ――どうして同情してはいけないのか』より)

たとえば、

《――本気でないのに「愛してる」と言ったことがありますか?

 いつもだ。本気で誰かを愛してる時には、攻撃的で後味の悪いbad taste発言をしてしまうんだ。》については、次の文で捕捉しよう。

ラカンによる愛の定義 ――「愛とは自分のもっていないものを与えることである」 ――には、以下を補う必要がある。「それを欲していない人に」。誰かにいきなり情熱的な愛の告白をされるというありふれた体験が、それを確証しているのではないか。愛の告白に対して、結局は肯定的な答を返すかもしれないが、それに先立つ最初の反応は、何か猥褻で闖入的なものが押しつけられたという感覚だ。(ジジェク『ラカンはこう読め!』)

さらに詳しい捕捉なら次の文がいい。

eromenos(愛される者)が、その手を延ばして「愛を返す」ことにより、erastes(愛する者)へと変わる崇高な瞬間がここにある。この瞬間は、愛の「奇跡」、「〈現実界〉からの答え」を表している。このことから、主体自身は「〈現実界からの答え〉」の状態にあるとラカンが主張しているときにその念頭にあるものが把握できるだろう。つまり、この逆転が起きるまで、愛される者は対象としての身分をもっている。つまり、愛される者は、自分では気がつかない「自分の中の自分以上のもの」である何かのために愛されている。「他者に対する対象としての自分は何者なのか。他者がわたしに何を見てわたしを愛するようになるのか」といった問いに答えることはできない。

そこである非対称が立ちはだかる。主体と対象という非対称だけではなく、愛する者が愛される者の中に見るものと、愛される者が知っている自分自身の姿とが一致しないという、より根源的な意味における非対称である。

ここで、愛される者の位置を定めている逃れがたい行きづまりに気づく。他者がわたしの中に何かを見てそれを欲しているが、わたしはわたしがもっていないものを与えることができないというものだ。または、ラカンの言葉を借りれば、愛される者がもつものと愛する者が欠いているものとの間には何の関係も存在しないとも言える。愛される者がこの行きづまりを抜け出す方法は一つしかない。

愛される者が愛する者に向かって手をさしのべて、「愛を返す」のだ。

つまり、象徴的な身振りでもって、愛される者の地位と愛する者の地位を交換する。この逆転が主体化の時点を指し示す。愛の対象は、愛の呼びかけに応えた瞬間、主体に変容する。こうした逆転が起こって初めて、真の愛が出現する。ただ単に他者の中のアガルマに魅了されているだけでは、真に愛しているとは言えない。愛の対象である他者が、実はもろくて失われたものであること、つまり「それ」をもっていない者であることを体験しても、愛がその喪失を乗り越えた時にこそ、真に愛していると言える。

この逆転の時を見逃さないように、とくに注意しなければならない。愛する者と愛される者という二元性という最初の構図はなくなり、今や二つの愛する主体となったが、非対称はやはり存在する。なぜなら、対象自身が、主体化によって、いわば自身の欠如を表明しているからだ。 (ジジェク『快楽の転移』 )



これらはラカンの愛の定義(のひとつ)の優れたリメイクでもある。


《――愛というものをどういう風に感じていますか?

 とんでもない不運、恐るべき寄生体、全てのささやかな楽しみを台無しにする永続化された緊急事態、そういったもの。》については、次のインタヴューの発言を想起しておこう。

ーーBut you went into analysis with Miller?

Yeah, but it was very perverted, strange analysis. I went into analysis because I was for private reasons, unfortunate love affair, into deep, deep, deep crisis. And then it worked in a purely bureaucratic way. He told me, come next week, come tomorrow at 5pm. I was really in a suicidal mood for about a month and the idea was, wait a minute, I can not kill myself because I have to be tomorrow at five with Miller. The purely formally bureaucratic structure of obligation allowed me to survive the worst crisis, and then it went on for years.(Parker, (2003) ‘Critical Psychology: A Conversation with Slavoj Žižekより)



《――どれくらいの頻度でセックスをしますか?

 「セックス」という言葉で何を意味するかによるね。もし、それが普通そうであるように、生きているパートナー相手のマスターベーションを意味するのなら、全くそれをしないように努めている》に関しては、次の文。

ほとんどの夫婦の実態(……)。つまり、合法的な伴侶とセックスしながら、「心の中では相手を裏切り」、別の人物と寝ているところを空想しているのではなかろうか。現実の性関係はこの幻想的な補完物によって支えられなくてはならないのである。(ジジェク『ラカンはこう読め!』p191)

そうだな、結婚とはほとんどの場合、次のようなものだからな、こうならないように「きみ」に忠告しておくよ。

《In Lacanian terms, marriage subtracts from the object (partner) “what is in him/her more than him/herself,” the objet a, the object‐cause of desire, it reduces the partner to an ordinary object. The lesson of marriage which follows Romantic love is: you are passionately in love with that person? So marry her and you will see what he or she is in everyday life, with his or her vulgar tics, petty meanness, dirty underwear, snoring, and so forth. One should be clear here: it is marriage whose function it is to vulgarize sex, to take all true passion out of it and turn it into a boring duty. 》(Zizek”Less Than Nothing“)


あるいは、こうも言える、--《結婚…愛がなくても結婚的生活によって愛が生まれる・・・ではなく、相手を愛しすぎないように儀式化するために結婚する》

パスカルは、信仰を持ちたいのに信仰への飛躍がどうしてもできない非信者への助言の中で、こう述べている。「跪いて祈り、信じているかのように行動しなさい。そうすれば信仰は自然にやってくるだろう」。あるいは、現代の「断酒会」はもっと簡潔にこう言っている。「できるふりをしろ。できるようになるまで」。しかし今日、文化的ライフスタイルへの忠誠心から、われわれはパスカルの論理を逆転する。「あなたは自分が本気すぎる、信じすぎると思うのですね。自分の信心が生々しく直接的すぎるために息苦しいのですね。それならば跪いて、信じているかのように行動しなさい。そうすれば信仰を追い払うことができるでしょう。もはや自分で信じる必要はないのです。あなたの信仰は祈りの行為へと対象化されたからです」。つまり、自分の信仰を大事にするのではなく、信仰が侵入してくるのを追い払い、一息つくスペースを確保するために跪くのだとしたらどうだろう。信じる--媒介なしに直接に信じる--という苦しい重荷を、儀式を実践することによって誰か他人に押しつけてしまえばいいのだ。(結婚…愛がなくても結婚的生活によって愛が生まれる・・・ではなく、相手を愛しすぎないように儀式化するために結婚する)(ジジェク『ラカンはこう読め!』)



附記:

ジョゼフ・マンキエヴィッツの古典的ハリウッド流メロドラマ『三人の妻への手紙』……失踪する婦人は、スクリーンには一度も登場しないのだが、ミシェル・シオンの言う<幻の声>として、つねにそこにいる。画面の外から聞こえる、小さな町に住む宿命の女、アッティー・ロスの声が、ストーリーを語る。彼女は、日曜日に河下りをしている三人の妻のもとに一通の手紙が届くように手配した。その手紙には、ちょうどその日、彼女たちが町にいない間に、彼女たちの夫の一人と駆け落ちするつもりだと、書かれている。旅を続けながら、女たちはそれぞれ自分の結婚生活の問題点をフラッシュバックで回想する。三人とも、アッティーが駆け落ちの相手として選んだのは自分の夫ではないか、という不安に駆られる。なぜなら彼女たちにとって、アッティーは理想的な女性である、妻には欠けた「何か」をもった洗練された女性であり、結婚そのものが色褪せて見えてしまうくらいなのだ。第一の妻は看護婦で、教養のない単純な女性で、病院で出会った裕福な男と結婚している。二番目の妻は、いささか下品だが、ばりばり仕事をする女性で、大学教授であり作家である夫よりもはるかに稼ぎがいい。三番目の妻は、たんに金目当てに裕福な商人と愛のない結婚をして労働者階級から成り上がった女である。素朴なふつうの女、仕事ができる活発な女、狡猾な成り上がり女、三人とも妻の座におさまりきらず、結婚生活のどこかに支障をきたしている。三人のいずれにとっても、アッティー・ロスは「もう一人の女the Other Woman」に見える。経験豊富で、女らしい細やかな気配りがあり、経済的にも独立している、と。(……)


アッティーは三番目の女の夫である裕福な商人と駆け落ちするつもりだったのだが、彼は土壇場になって気が変わり、家に帰り、妻にすべてを打ち明ける。彼女は離婚して相当な慰謝料をもらうこともできたのだが、そうはせずに夫を許し、自分が夫を愛していることに気づく。かくして最後に三組の夫婦が一同に会する。彼らの結婚生活を脅かしているように見えた危険は去った。しかし、この映画の教訓は、第一印象よりもいささか複雑である。このハッピーエンドはけっして純粋なハッピーエンドではない。そこには一種の諦めがある。いっしょに暮している女は<女>ではない、結婚生活の平和はつねに脅かされている、つまり、結婚生活に欠けているように思われるものを体現した別の女がいつ何時あらわれるかもしれない……。ハッピーエンド、すなわち夫が妻のもとに戻ることを可能にしているのは、まさしく、<もう一人の女>は「存在しない」のだ、彼女は究極的にはわれわれと女性との関係の隙間を埋める幻の存在にすぎないのだ、という経験的知である。いいかえれば、妻との間にしかハッピーエンドはありえないのだ。もし主人公が<もう一人の女>を選んだとしたら(もちろんその典型的な例はフィルム・ノワールにおける宿命の女だ)、その選択によって彼はかならずや無残な状況に陥り、命を落とすことすらある。ここにあるのは近親相姦の禁止、すなわちそれ自体すでに不可能なものの禁止、というパラドックスと同じパラドックスである。<もう一人の女>は「存在しない」からこそ禁じられる。<もう一人の女>が恐ろしく危険なのは、幻の女と、たまたまその幻の位置を占めることになった「経験的な」女とは、結局のところ一致しないからである。(ジジェク『斜めから見る』p157-158)