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2014年8月15日金曜日

柔らかな体は腰のあたりからそり返る

今井好子「ウェットスーツのある部屋」より(『揺れる家』(土曜美術社出版販売、20140707日発行)所収)


預かりものの中身が気になり そっとのぞくと
飛び出したのはウェットスーツだった
男物の黒色の合成ゴム
それは人の形にひろがりだらりと所在なくて
海から離れた小さな私の部屋を埋めた
持ち主は一向に取りに来る気配がない
いや預かって以来全く連絡がない とれない
ウェットスーツはクローゼットの端でしずまっている

(……)

床でクローゼットのウェットスーツを抱きしめると
強く抱くと柔らかな体は腰のあたりからそり返り
長い腕がますますたれさがる
ウェットスーツと一対になって夜の
底へ底から底へ 落ちていく





いいなあ、セクシーだなあ

今井好子さんてどんなひとなんだろ
顔写真さがしても見つからないけど

「1963年愛知県生まれ」とあるなあ

ひょっとして渥美半島の伊古部とか
伊良湖に馴染んだひとじゃないか
オレより五歳若いなあ

男の残した黒色の合成ゴム抱きしめるなんて
あの娘みたいだよ
海に向かう男たちはカッコいいからな
あいつらには負けるよ

いい女だったなあ
ヤラせてくれなかったけど

1963年生まれだったらもう五十女だけど
海のかおりがにおうままの女なのだろうなあ






西脇順三郎は
「わたしの詩の世界は
藪の中の鶯の巣のように
少年が撃つ空気銃の一発で破滅するかも知れない」
と言ったらしいけど
吉岡実「夏の宴ーー西脇順三郎先生に」によればだけどさ
こういった詩を読むと
フロイトやらラカンなどをはじめ
ごたごたいう「思想家」への関心なんて
一発で破滅しちゃうなあ