巻物の畫はまづ屏風の前に對座してゐる柿色の衣の和尚と若後家の一景からはじまつてゐた。俳畫風の筆づかひで洒脱に書き流され、和尚の顔は、滑稽で魁偉な男根そのものの感じに描かれてゐた。
次の和尚が突然のしかかつて若後家を犯さうとし、若後家は抗ふが、すでに裾は亂れてゐる。次に二人は素肌で相擁してゐるが、若後家の表情は和んでゐる。
和尚の男根は巨松の根のやうにわだかまり、和尚の顔は恐悦の茶いろの舌を出してゐる。若後家の、胡粉で白く塗られた足の指は、傳來の畫法によつて、悉く内側へ深く撓められてゐる。からめた白い腿から顫動が走つて、足指のところで堰かれて、曲られた指の緊張が、無限に流れ去らうとする恍惚を遁がすまいと力んでゐるように見える。(三島由紀夫「春の雪」291頁)
以前、「枕絵とフェティシズムーー春信と歌麿(加藤周一)」の文を書いた折、《……足の指は、傳來の畫法によつて、悉く内側へ深く撓められてゐる。からめた白い腿から顫動が走つて、足指のところで堰かれて、曲られた指の緊張が、無限に流れ去らうとする恍惚を遁がすまいと力んでゐるように見える。》の表現を朧に憶えており、さて誰が書いたものだったか、と探していたのだが、荷風や谷崎には見つからず、昨晩漸く三十年ぶりぐらいに「春の雪」を読んでいて行き当たる。
この巻物の画像はインターネット上には残念ながら見つからず。
かわりに「諧風末摘花」よりいくつか。
和尚さま 善女人だと 可愛がり
後家の下女 鵜の真似をして 追ん出され
後家の世話 しすぎて大家 うたがわれ
若後家を すすめて和尚 法に入れ
はりがたで 在すが如く 後家よがり
――《水べを渉る鷭の声に変化した女の声を聴く》(吉岡実「感傷」)
その他にもいくらか拾う。荷風の『四畳半襖の下張』の叙述を想起させる表現はなはだ多し。
女房に 茶臼引かせりゃ 引っ外づし
里開き までも済んでの 茶うすなり
茶うすとは 美食のうえの 道具なり
およそ女の尻あまり大きく引臼の如くに平きものは、抱工合よろしからざるのみか、四ツ這にさせての後取は勿論なり、膝の上に抱上げて居茶臼の曲芸なんぞ到底できたものにあらず。女は胴のあたりすこしくびれたやうに細くしなやかにて、下腹ふくれ、尻は大ならず小ならず、円くしまつて内股あつい程暖に、その肌ざはり絹の如く滑なえば、道具の出来すこし位下口(したくち)なりとて、術を磨けば随分と男を迷し得るべし。
お妾は くわえて引くが かくし芸
おめかけの 乙な病ひは 寝小便
抜くときに 舌打ちをする 大年増
肌身とはぴつたり合つて、女の乳房わが胸にむず痒く、開中は既に火の如くなればどうにも我慢できねど、こゝもう一としきり辛棒すれば女よがり死するも知れずと思ふにぞ、息を殺し、片唾を呑みつゝ心を他に転じて、今はの際にもう一倍よいが上にもよがらせ、おのれも静に往生せんと、両手にて肩の下より女の身ぐツと一息にすくひ上げ、膝の上なる居茶臼にして、下からぐひぐひと突き上げながら、片手の指は例の急所攻め、尻をかゝえる片手の指女が肛門に当て、尻へと廻るぬめりを以て動すたびたび徐々(そろそろ)とくぢつてやれば、女は息引取るやうな声して泣きぢやくり、いきますいきます、いきますからアレどうぞどうぞと哀訴するは、前後三個処の攻道具、その一ツだけでも勘弁してくれといふ心歟欺。髪はばらばらになつて身をもだゆるよがり方、こなたも度を失ひ、仰向の茶臼になれば、女は上よりのしかゝつて、続けさまにアレアレ又いくまたいくと二番つゞきの淫水どツと浴びせかけられ、此だけよがらせて遣ればもう思残りなしと、静に気をやりたり。
小間物屋 すぽすぽさせて 一本売り
かたい奥 さてはりかたは よく売れる
小間物屋 よっきよっきと 出して見せ
いぼ付きは 切らしましたと 小間物屋
ふとどきな 女房へのこを 二本もち
恋の闇 下女は小声で ここだわな
早くして 仕舞いなと 下女ひんまくり
をしいこと まくる所を下女 呼ばれ
物置で 下女沢庵を ふりまわし
したくない 顔をしている 奥女中
女房の 寝耳に下女の よがり声
今夜ばかり よと女房 上になり
下にして 呉れなと女房 せつながり
もっと大ごし にと亭主 下で云い
宝ぶね 皺になるほど 女房漕ぎ
さても女、早く埒を明けさせんと急りて腰をつかふ事激しければ、おのづとその身も幾分か気ざゝぬわけには行かぬものなるを、此方は時分を計り、何もかも夢中の体に見せかけ、片手に夜具刎(はね)のけるは、後に至つて相手をはだかになし、抜挿見ながら娯しまんとの用意なり。
このところ暫くして、女もし此侭に大腰つかひ続けなば、いよいよほんとに気ざし出すと気付きてやゝ少し調子をゆるめにかゝるを窺ひ、此方は又もや二三度夢中の体にて深く入るれば、女はこの度こそはと再び早合点してもとの如く大腰になるを、三四回の抜挿に調子を合せし後ぐツと一突深く入れて高く抜くはづみに、わざとはづして見せれば驚いて女は男の一物指先にて入れさせる、それにつれて此方も手をさし込み、毛がはいりはせぬかあぶないよと、又抜いて、この度はわれを我手にて入れるをしほに、そのあたり手暗りの所さがす振にて、女の急所指先にていぢり掛れば、此の場になりて、そんな悪戯してはいやよとも言はれず、だまつて男のなすまゝにさせるより外なきは、最初より此方の計略、否応いはさず初会の床にしたゝか気をやらせて見せる男の手なり。女といふもの誰しもつゝしみ深くお客に初めより取乱してかゝるものは少し。
ぬけるまで 置けば女房も 機嫌なり
ぢっとして 居なと抜き手で 紙を取り
さて拭く段になりて、女は用意の紙枕元にあるを知れども、手は届かず、其身は茶臼の最中、長襦袢うしろにすべり落して、腰巻さへ剥がれし丸はだか、流石に心付いては余りの取乱しかた今更に恥かしく、顔かくさうにも隠すべきものなき有様、せん方なく男の上に乗つたまゝにて、顔をば男の肩に押当て、大きな溜息つくばかりなり。どうしたえと下から問掛ければ、鼻つまらせ泣き声にて、あなたどうかして頂戴よ、紙がとれませぬ、取れねば拭かずともよいワ、重くてならぬ、と下から女の肩を押して、起きなといへど、煌々たる電灯この侭にては起きも直れぬと見得、猶ぢつとしてゐるにぞ、入れたままの一物まだ小さくなる暇なきを幸、そつと下から軽く動して見るに、女は何とも言はず、今方やつと静まりたる息づかひすぐにあらくさせて顔を上げざれば、こりやてつきり二度目を欲する下心と、内心をかしく、暫くして腰を休めて見るに、女は果せる哉、夢中にて上から腰をつかふぞ恐ろしき。
抜き足で 泣くのを聞きに 五六人
足音の たんびにこしを つかい止め
死にますの 声に末期の 水をのみ
元来淫情強きは女の常、一ツよくなり出したとなつたら、男のよしあし、好嫌ひにかかはらず、恥しさ打忘れて無上にかぢりつき、鼻息火のやうにして、もう少しだからモツトモツトと泣声出すも珍しからず。さうなれば肌襦袢も腰巻も男の取るにまかせ、曲取のふらふらにしてやればやる程嬉しがりて、結立(ゆひたて)の山髪も物かは、骨身のぐたぐたになるまでよがり盡(つく)さねば止まざる熱すさまじく、腰弱き客は、却つてよしなき事仕掛けたりと後悔先に立たず、アレいきますヨウといふ刹那、口すつて舌を噛まれしドチもありとか。