異神の槍のようなアカゲラの舌を見よ
彫刻ナイフのようなヤマシギの舌を見よ
しなやかな凶器 トラツグミの舌を見よ
鳥の目は邪悪そのもの
鳥の舌は邪悪そのもの
彼は破壊するが建設しない
彼は再創造するが創造しない
彼は断片 断片のなかの断片
彼には気嚢はあるが空虚な心はない
彼の目と舌は邪悪そのものだが彼は邪悪ではない
燃えろ 鳥
燃えろ鳥 あらゆる鳥
燃えろ 鳥 小動物 あらゆる小動物
燃えろ 死と生殖
燃えろ 死と生殖の道
燃えろ
鳥の舌は邪悪そのもの
彼は破壊するが建設しない
彼は再創造するが創造しない
彼は断片 断片のなかの断片
彼には気嚢はあるが空虚な心はない
彼の目と舌は邪悪そのものだが彼は邪悪ではない
燃えろ 鳥
燃えろ鳥 あらゆる鳥
燃えろ 鳥 小動物 あらゆる小動物
燃えろ 死と生殖
燃えろ 死と生殖の道
燃えろ
「言葉のない世界」より/ 田村隆一
クロード・サミュエル(C・S)ーオリヴィエ・メシアンさんの前で《鳥》という言葉を口にすると、その顔が明るくなります。これは音楽家としての反応だけではない。人間としての反応でもあります。つまり、オリヴィエ・メシアンさん、鳥があなたの音楽語法中でかくも大きな地位を占めているということは、それはなによりもまず、あなたが自然を愛しておられるからなのでしょう。
[O・M]ー確かにそうです。芸術的な順位からいって、鳥類はわれわれの遊星上に存在するおそらく最大の音楽家です。(中略)しかしあらゆる驚異の中で最大のもの、作曲家にとって最も貴重なものはいうまでもなく、その歌です。鳥の歌はまことに驚くべきもので、もしよろしければ鳥の歌の動因を検討してみたいと思います。
異様に思われるかも知れませんが、鳥の歌というものは何よりもまず領土的な側面をもっているものです。すなわち、鳥は自分の小枝や食べものを防衛したり、雌や巣や小枝や、あるいは自分が糧を得る地域の所有者であることを確保するために歌うのです。事実、領域の所有権に関する鳥どうしの争いはしばしば歌合戦で解決されるので、侵入者が自分の領域でないところを不当に占領しようとすると、本当の所有権者は歌って、非常によく歌うと侵入者は逃げていってしまうのです。
C・S-「タンホイザー」の第二幕みたいですね!
O・M-そう。しかしワグナアが予見しなかったような逆の場合もあります。つまり、もし盗人のほうが本当の領有者よりも上手に歌った場合には、領主は彼に場を譲るのです。人間どうしの場合も、こういう魅力的な方法で争いを解決したほうがよいのではないでしょうか。
鳥が歌う第二の動向はいうまでもなく性愛の衝動によるもので、鳥が愛の季節である春になかんずく歌うのはそのためです。歌はー若干の例外を除きー原則として、雌を誘惑しようとして歌う雄の特性です。他の性愛的誇示行為、たとえば婚姻のパレード。
しかし第三の種類の歌もあり、これは全く讃嘆すべきもので、何の目的も社会的機能ももたない歌であって、ふつう生まれてくる光と消えゆく光によって誘発されるものです。たとえば私はジュラ地方で特別に有能な≪ウタツグミgrive musicienne≫を見ましたが、その歌は、日没が赤や紫の素晴らしい光彩で非常に美しかった時など全く天才的なものでした。しかし色がそれほど美しくなかったり日没が短かったりしたとき、この鶫は歌わなかったり、歌ってもそれほど興味のない主題で歌うだけでした。
最後に、鳥類が発する音楽的な音で、鳥類学者が≪歌≫としてではなく≪呼び≫という題で分類するものについてもお話しなければなりません。こういった「呼び」は真の音楽的言語を形づくっていて、ここでわれわれは、指導動機(ライトモチーフ)という方法による音楽的符号で想念を表現しようとしたワグナアの感動的な探求を想起せずにはいられません。事実、鳥たちは、容易に識別できる明確な意味をもった「呼び」でできた会話をするもので、たとえば、愛への呼びや食物への呼びや警報の叫びなどがあります。警報の叫びは非常に重要なもので、切迫した危険を告げるためどんな種類の鳥がこの叫びをあげようと、すべての鳥がこれを理解できるのです。
以上、鳥たちの発声の種々のカテゴリーを要約するとこういうことになりますー一方に社会的コミュニケーションの手段として「呼び」があり、他方に本来の意味の歌があり、これには領土的なもの、誘惑の歌、そしてすべての中で一番美しいものとして、生まれる光や消えゆく光に向けられた無目的の歌があるということになります。 (『現代音楽を語る オリヴィエ・メシアンとの対話』クロード・サミュエル著 戸田邦雄訳 芸術現代社 昭和50年)
ーー直訳すれば、「時の終りのための」だろう。
<鳥たちの深淵 Abîme des oiseaux>
地上の星 (瀧口修造)
Ⅰ
鳥、千の鳥たちは
眼を閉じ眼をひらく
鳥たちは
樹木のあいだにくるしむ。
真紅の鳥と真紅の星は闘い
ぼくの皮膚を傷つける
ぼくの声は裂けるだろう
ぼくは発狂する
ぼくは熟睡する。
鳥の卵に孵った蝶のように
ぼくは土の上に虹を書く
脈搏が星から聴こえるように
ぼくは恋人の胸に頬を埋める。
Ⅱ
耳のなかの空の
ぼくは星の俘虜のように
女の膝に
狂った星を埋めた。
忘れられた星
ぼくはそれを呼ぶことができない
或る晴れた日に
ぼくは女にそれをたずねるだろう
闇のなかから新しい星が
ぼくにそれを約束する。
美しい地球儀の子供のように
女は唇の鏡で
ぼくを ぼくの唇の星を捕える
ぼくたちはすべてを失う
樹がすべてを失うように
星がすべてを失うように
歌がすべてを失うように。
ぼくは左手で詩を書いた
ぼくは雷のように女の上に落ちた。
手の無数の雪が
二人の孤独を
手の無数の噴水が
二人の歓喜を
無限の野のなかで
頬の花束は
船出する。
Ⅲ
鳥たちはぼくたちをくるしくした
星たちはぼくたちをくるしくした
光のコップたちは転がっていた
盲目の鳥たちは光の網をくぐる
無数の光る毛髪
それは牢獄に似た
白痴の手紙である。
白いフリジアの牢獄は
やがて発火するだろう
そして涙のように
消えるだろう。
Ⅳ
鳥たちは世界を暖めた
ぼくの下の女は眼を閉じている
ぼくの下の女は眼を閉じている
鳥たちはぼくたちに緑の牧場をもってくる。
彼女の肥えた牡牛のような眼蓋は
こがね色に濡れている
レダのように 聖な白百合のように
彼女の股は空虚である
ぼくはそこに乞食が物を乞うのをさえ見た
あらゆる悪事が浮遊していた
ぼくは純白な円筒形を動かすことができる。
仏陀は死んだ。
Ⅴ
闇のように青空は刻々に近づく
ぼくは彼女の真珠をひとつひとつ離してゆく
ぼくたちは飛行機のように興奮し
魚のように悲しむ
ぼくたちは地上のひとつの星のように
ひとつである
ぼくの精液は白い鳩のように羽搏く
ぼくは西蔵の寺のように古い詩を書く
そしてそれを八つ裂きにする
ぼくは詩を書く
ぼくは詩を書く
そしてそれを八つ裂きにする
それは赤いバラのように匂った
それはガソリンのように匂った。
氷のように曇った彼女の頬が見える
花のように曇った彼女の陰部が見える
そして鳥たちは永遠に
風のなかに住むだろう
狂った岩石のように。
盲目の鳥たちは光の網を潜る。
植物の熱気、おお、光、おお、恵み!…
Ⅰ
鳥、千の鳥たちは
眼を閉じ眼をひらく
鳥たちは
樹木のあいだにくるしむ。
真紅の鳥と真紅の星は闘い
ぼくの皮膚を傷つける
ぼくの声は裂けるだろう
ぼくは発狂する
ぼくは熟睡する。
鳥の卵に孵った蝶のように
ぼくは土の上に虹を書く
脈搏が星から聴こえるように
ぼくは恋人の胸に頬を埋める。
Ⅱ
耳のなかの空の
ぼくは星の俘虜のように
女の膝に
狂った星を埋めた。
忘れられた星
ぼくはそれを呼ぶことができない
或る晴れた日に
ぼくは女にそれをたずねるだろう
闇のなかから新しい星が
ぼくにそれを約束する。
美しい地球儀の子供のように
女は唇の鏡で
ぼくを ぼくの唇の星を捕える
ぼくたちはすべてを失う
樹がすべてを失うように
星がすべてを失うように
歌がすべてを失うように。
ぼくは左手で詩を書いた
ぼくは雷のように女の上に落ちた。
手の無数の雪が
二人の孤独を
手の無数の噴水が
二人の歓喜を
無限の野のなかで
頬の花束は
船出する。
Ⅲ
鳥たちはぼくたちをくるしくした
星たちはぼくたちをくるしくした
光のコップたちは転がっていた
盲目の鳥たちは光の網をくぐる
無数の光る毛髪
それは牢獄に似た
白痴の手紙である。
白いフリジアの牢獄は
やがて発火するだろう
そして涙のように
消えるだろう。
Ⅳ
鳥たちは世界を暖めた
ぼくの下の女は眼を閉じている
ぼくの下の女は眼を閉じている
鳥たちはぼくたちに緑の牧場をもってくる。
彼女の肥えた牡牛のような眼蓋は
こがね色に濡れている
レダのように 聖な白百合のように
彼女の股は空虚である
ぼくはそこに乞食が物を乞うのをさえ見た
あらゆる悪事が浮遊していた
ぼくは純白な円筒形を動かすことができる。
仏陀は死んだ。
Ⅴ
闇のように青空は刻々に近づく
ぼくは彼女の真珠をひとつひとつ離してゆく
ぼくたちは飛行機のように興奮し
魚のように悲しむ
ぼくたちは地上のひとつの星のように
ひとつである
ぼくの精液は白い鳩のように羽搏く
ぼくは西蔵の寺のように古い詩を書く
そしてそれを八つ裂きにする
ぼくは詩を書く
ぼくは詩を書く
そしてそれを八つ裂きにする
それは赤いバラのように匂った
それはガソリンのように匂った。
氷のように曇った彼女の頬が見える
花のように曇った彼女の陰部が見える
そして鳥たちは永遠に
風のなかに住むだろう
狂った岩石のように。
盲目の鳥たちは光の網を潜る。
…………
<イエスの永遠性への賛歌 Louange à l'Éternité de Jésus>
植物の熱気、おお、光、おお、恵み!…
それからあの蠅たち あの種の蠅ときたら、庭のいちばん奥の段へと、まるで光が歌っているかのように!
(……)
想いだすのは塩、黄いろい乳母が私の眼尻からふきとらねばならなかったあの塩。
(……)
想いだすのは塩、黄いろい乳母が私の眼尻からふきとらねばならなかったあの塩。
黒い妖術師が祭式に際してしかつめらしく宣言していた、<世界は丸木舟のごとし。ぐるぐる廻り廻って、風が笑わんとするか泣かんとするかをもはや知らぬ…>
するとたちまち私の眼は 輝く波にゆられる世界を描こうと努めて、木の幹になめらかな帆柱を認め、葉陰に檣桜をまた帆桁を、蔓草に支檣索を認めるのだった。
そのしげみでは 丈高すぎる花々が
鸚哥(いんこ)の叫びをあげてかっと開くのであった。
<イエスの不滅性への賛歌 Louange à l'Immortalité de Jésus>
ーー「サン=ジョン・ペルス詩集」多田智満子訳