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2014年11月3日月曜日

アベノミクスによる税収増と国債利払い増

まず「アベノミクス2年目の課題」(富士通総研 早川英男 2014.3.11)より。








元日銀理事である早川英男氏は、今年の5月2日にもこう語っている。

「物価だけに限って言えば、日銀の勝ちだ」と述べ、既に完全雇用であり、人手不足による賃金上昇が今後起きて、物価は来年度の終わりころには2%には近づいてくると予想した。同時に日銀は潜在成長率の低下という不都合な真実から目を背けているとも語った。(……) 
足元0.6%前後で低位安定している長期金利 について早川氏は「国債市場は物価がいつまで経っても2%に届かない、従って日銀がいつまでも国債を買ってくれるという前提で取引をしている」と語った。 
その上で今年度末は無理にしても物価は2%にだんだん近づいてくるとして「そうなると、日銀はいずれ国債を買ってくれなくなる。その日が近づいている。国債市場だけでなく、日銀も完全にモラルハザードに陥っていて、国債の暴落は起こらないと思っているが、それは起こる」と予測した。(国債暴落必至、日銀の「不都合な真実」潜在成長率低下で-早川氏  2014.5.7)


国債の暴落、急激なインフレが起こる予兆さえないのは「不可解な現象」であるという疑念が、『「財政破綻後の日本経済の姿」に関する研究会』においても主要な議題であるのを少し前みた。

日本の深刻な財政危機状態や2%の物価上昇率を目標に掲げる日銀の歴史的な積極的金融緩和策が続行されるなか、8月末時点の長期債の最終利回りは0.5%を下回っている。ある意味、不可解な現象である。われわれは過去2年間「現状の日本でなぜ国債価格の大幅下落、急激なインフレを伴う「財政破綻」は現実化しない、その予兆も見えないのはなぜか・・・?」という問題意識を抱き、研究会を続けてきた。そして過去数回の研究会では、日本の国債価格の形成メカニズム、とりわけ投資家の期待形成メカニズムや資産選択行動を解明する糸口を求めて関連するファイナンス研究について見てきた。(「日本の財政は破綻する」などと言っている悠長な状況ではない?

ーーやっぱり不思議だぜ。そろそろあるんじゃないか? で、どうしたらいいんだろって? タンス外貨預金に決まってるだろ。まともな経済学者や政治家、財務省やら日銀の首脳はもうとっくの昔に準備してるさ。銀行封鎖もあるしな、大事なのはタンス「外貨」預金だぜ、それに田舎に農地なんかあったら、ハイパーインフレでボロ儲けできるかもな、ーーなどと書くほど、経済のことに詳しくなく、一年に何度か訪れる「日本の財政」への散発的な関心からの臆断ではあるに過ぎないのは蛇足ながら断わっておかなくちゃな。

ジャン=ピエール・デュピュイは、《たとえ知識があろうとも、それだけでは誰にも行動を促すことはできない》と言う。なぜなら《私たちは自分の知識が導く当然の帰結を、自分で思い描けないから》と。

で、どうしたらいいのかと言えば、「地獄郷dystopia」、「未来の固定点」からの倒錯的遠近法であり、これがデュピュイの主張する「プロジェクトの時間」、あるいはフレドリック・ジェイムソンのいう「現在へのノスタルジア」的なパースペクティヴということになる。

で、現在に、《「これこれをしておいたら、いま陥っているーー未来の「今」陥ってるーー破局は起こらなかっただろうに!」)を挿入すること》が肝要らしいな。(参照

…………

税収増と利払い増のかねあいが、ここ数年来、経済専門家たちの議論の種になってきた。要するに、アベノミクス(リフレ政策)によって、税収増以上に国債の利払い増となってしまうのではないか、という懸念をもつ慎重派がリフレ政策を嫌った大きな理由だっただろう。

前投稿では、アベノミクスが仮に成功しても、かつまた消費税大幅増施策を打っても、社会保障費削減に手をつけなければ、なんともならない、という経済学者たちの見解をメモした。以下も、前投稿「日本の財政破綻シナリオ」と同じくメモに終始する。

財務省は、狭い自分の領域でしか物事を考えていません。たとえば、国債の名目金利が低ければ利払い費が少なくて済みます。利払い費が少なければ安心だと考えます。そして、利払い費を少なくするためには、デフレのほうがいいと考えるため、財務省はデフレを好む傾向があります。しかし、デフレが続いて、国債の名目金利が低いにもかかわらず、毎年財政が悪化していることを、財務省はどう説明するのでしょうか。(岩田規久男『リフレは正しい:アベノミクスで復活する日本経済』)
──異次元緩和後の金利動向をどうみているか。

「金利に対しては2つの違う働きの効果が働いている。国債を大量に買い入れたため、名目金利やリスクプレミアムは下がる。一方、予想インフレ率が上がることで名目金利が上昇する要素もある。金融政策の結果、予想インフレ率が上昇し、実質金利が下がっているかどうかが一番大事だ。そうでなければ株や為替、実体経済に対する影響が出てこない。(現在の実質金利は)BEIでみるとマイナスだ」(岩田日銀副総裁インタビューの一問一答 2103.6.24)

ここで、「アベノミクスと日本経済の形を決めるビジョン」から再掲してみよう。


◆インタビュー:利払い負担で資金繰り苦しく、財政不安定化も=池尾教授(2013.4.12)

「日銀が大量の国債を買い取ることで、これまで民間部門が保有していた国債が減るために、国債の需給が引き締まり、長期国債の利回りは低下する要因となるはず。一方で他の資産市場にシフトして国債市場から離脱する市場参加者の方が多ければ、かえって需給が緩み、結局利回りは下がらない。何らかのストレスが市場に発生することで、財政に伝播してしまうリスクや、金利上昇の際のリスクが大きくなったともいえる」と不安を示す。

ただし「何が起こるかは、民間金融機関の行動次第だ。買えるだけの国債は買った上で買えない部分だけ外債投資に移すのか、あるいは、国債市場から離脱して他の投資先を本格的に求めていくのかによって、生じる結果も変わる。確定的なことはわからない」として、今後の市場の動きを見極める必要性を指摘する。

さらに大きなリスクとみているのは、デフレから脱却して景気が回復すれば、金利が上昇し、利払い負担が膨らむこと。「これまでは、デフレのもとで財政が奇妙な安定を保ってきたが、デフレから脱却して金利が上昇すると、財政の安定が崩れるというリスクがある。その際、成長率上昇による税収増と利払い費の比較になる。税収に比べて利払いが大きくなっているので、成長率が1%上がった場合、金利も1%上がると、税収増より利払い増が大きくなり、資金繰りが苦しくなる」というものだ。

そのうえで、デフレ脱却を目指す以上、財政リスクへの備えが欠かせないと指摘。「これだけの公的債務を抱えている国の首相が、金利上昇方向の政策を推進し、大胆な緩和策をとる以上は、それに見合った財政のコンティンジェンシープランが必要だ」と強調する。

後半箇所の「大きなリスク」をめぐっては、池尾氏は、アベノミクス以前、リフレ談義が巷間で賑わったころより(あるいはそれ以前から)、再三同じようなことを主張し続けている(参照:「財政破綻」、「ハイパーインフレ」関連)。

ここでは野村総研の大崎貞和氏との対談(「経済再生 の鍵は 不確実性の解消 」 野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部 ©2011 Nomura Research Institute, Ltd. )よりひとつだけ抜き出しておく。http://www.nri.co.jp/opinion/kinyu_itf/2011/pdf/itf_201111_2.pdf


デフレから脱却しなければいけないのだけれども、そのプロセスについてはかなり慎重に考えなければいけません。

インフレになれば債務者が得をして債権者が損をするという感覚があります。しかしそれは、例えば年収と住宅ローンのように、所得1に対して抱えている負債がせいぜい2、3ぐらいのときの話です。

日本の置かれている状況は、 一般会計の税収40兆円ぐらいに対し、 グロスで1,000兆円ぐらいの政府債務があるわけです。 そうすると、 1対25です。 景気がよくなって税収が増えたとしても、 利払いの増加のほうがその上をいく構造になっています。 ですから、 景気が好転するときが一番用心すべきときになります。

デフレ脱却を叫ぶのであれば、デフレを脱却しても困らない体制をつくる必要があります。所得税の累進構造をもう少し高めるのも一つですし、景気が回復に向かった際、ある種の増税措置を速やかに発動できる体制をつくるのも一つです。要するに、そこまで日本の財政問題は困難化しているわけです。

やはり政治にちゃんと機能してもらわないと絶対よくなりません。財務省や日本銀行に責任を丸投げしている場合ではありません。

国債利払い、21年度20兆円に倍増 財務省試算 (2012/1/30)

財務省は30日、2012年度予算案をもとに歳出と歳入の見通しを推計して公表した。消費税率を15年10月に10%に引き上げても国債残高は21年度末に1000兆円を超えるまで増え続け、21年度の国債の利払い費は20兆円へと倍増する見込みだ。先進国で日本の債務残高が突出している状態は変わらず、社会保障費の抑制など歳出削減が急務であることが改めてわかった。

 財務省が公表したのは「後年度影響試算」。消費税率を14年4月に8%に、15年10月に10%に引き上げることを盛り込んだ初めての試算になる。

 消費増税しても国債の残高が膨らむのは、全体の税収が増えても、社会保障の拡充やそれまでに発行した国債の元利払いが税収増より大きいためだ。このため新規国債の発行額も減らない。過去に発行した国債の利払いのために新たな国債を発行する悪循環を断ち切れない構図だ。

残高1000兆円超

 試算によると、国債残高(復興債を除く)は12年度末の696兆円から21年度末には311兆円増の1007兆円に達する見通し。利払い費も12年度の10兆円から21年度には20.7兆円にまで増える。経済成長率は1%台半ば、長期金利(新発10年物国債利回り)は現在より高い2%程度と仮定している。

 消費税率を5%上げるのに伴って税収は15年度には12年度よりも約10.5兆円増える。これにより税外収入なども含めた収入は15年度に56兆円に増える。

 ところが社会保障費や地方交付税など政策的な経費は12年度の68.4兆円から15年度には73.9兆円まで増える。国債も毎年40兆円以上の新規発行で残高が積み上がるため、利払い費に国債の償還費などを足した国債費は12年度の21.9兆円から、15年度には27.5兆円に増えることになる。

 税収で政策的経費が賄えるかを示す基礎的財政収支は、12年度の22.3兆円の赤字が15年度に18.2兆円の赤字に縮小する。だが国債残高が増え続けるため、財政再建が急進展するとはいえない。


◆「日本の財政赤字の維持可能性」(深尾光洋 RIETI Discussion Paper Series 2012 年 6 )より。
消費税を 25%まで引き上げても、金利が少し上昇すれば、政府債務は増加を続けてしまう。例えば政府の平均借入金利が 2016 年の 1.5%から 21 年に 2.5%まで毎年 0.2 ポイント上昇を続けるケースを見たのが図表16である。この場合には、プライマリーバランスの3.4%の黒字では、利払い負担の GDP 比 4.6%をカバーしきれず、負債 GPP 比率は上昇を続ける。このように、政府債務が巨額になると、小幅の金利上昇でも政府債務は安定化できなくなってしまう。





…………

以下、うっかりすると間違えてしまう考え方への指摘(池尾和人氏から高橋洋一氏への質問)を附記しておく。元財務官僚の高橋洋一氏でさえこうなのだから、ネットなどでもっともらしく語られる話はさらにヒドイ、--嘲笑する気にもならない(オレの最近の記事も含めてな、と書いておかなくちゃな)。



経済成長は、大切である。しかし、実質的な成長でなければ意味が乏しく、インフレの高進で名目的に成長率が高まっただけだと、日本経済の抱える問題の解決に資することにはならず、逆に問題を悪化させる恐れすらある。例えば、インフレ率の上昇を反映して名目成長率と名目利子率が同率で上昇したとすると、日本の財政収支はむしろ悪化する可能性がある。それは、これだけ膨大な公的債務残高を抱えている状況下では、税収の増加を利払い費の増加が上回ると考えられるからである。


こうした点は、私自身も以前に述べたことがある(「デフレ脱却は信頼できる確約か」)が、高橋洋一氏は、こうした主張をする者に「財政破綻論者」というレッテルを貼った上で、そうした主張がインチキであるかのように論じている。しかし、私には高橋氏の主張の方にむしろ論理的な陥穽があるように思われる。こういうときには、本人にまず聞いてみた方がよいと思うので、次のような私信を送ってみた。


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高橋 洋一 様

前略

ご無沙汰しています。ちょっと質問です。

ダイヤモンド・オンラインの記事の中で、

 この数字にはトリックがある。国債残高は600兆円として、もしすべて1年債であったなら、金利が1%とすると次の年に6兆円増加して、その後は増えない。実際には1年より長期の国債もあるので、徐々に上がり数年経って6兆円まで上がるが、その後は増えない。

 ところが、名目成長が1%アップすると、時間が経過すればするほど税収は大きくなる。数年経つと6兆円以上増える。財務省の資料は、3年までしか計算せずに利払費が税収より大きいところだけしか見せないのだ。

と書かれています。

同じ趣旨のことは、『経済セミナー』20101011月号での宮崎哲弥氏との対談の中でも述べられていて、それを読んだときに疑問に思ったのですが、再び繰り返されているので、質問します。

上記の議論では、国債残高は600兆円のままで一定で、ずっと変わらないことになっていて、GDP(それゆえ税収)だけが成長することになっていると読めます。それだと、国債残高の対GDP比率は時間の経過とともに低下していくことになります。換言すると、上の主張は、現時点で財政収支の均衡を達成できていれば、という仮定がないと成立しないものではないですか?

しかし、日本の現状は、ご承知の通り、国債残高の対GDP比率はいまなお増加の一途にあります。かりに国債残高の対GDP比率を一定にもっていけたとしても、翌年以降の国債残高は増え、時間が経過すればするほど利払い費も大きくなっていくはずです。それゆえ、税収だけではなく、利払い費の方もやはり複利で考えなければならないと思いますが、いかがでしょう?

私が何か勘違いしていますか?

草々

池尾 和人(慶應義塾大学経済学部)

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(……)

なお、もちろん「公債残高が増えないとすれば、いずれ税収増が利払い増を上回る」、あるいは「当初時点で存在していた公債残高分に限れば、いずれ税収増がその分に関する利払い増を上回る」という主張は、論理的には間違っていない。しかし同時に、現実的な関連性に乏しい無意味な話に過ぎない。

実際には、公債残高は増え続けると見込まれるのであるから、問われるべきは、その時点で存在している公債残高に関する利払い費の推移と税収増の関係である。しかし、これをかなり先の時点についてまで計算しようとすると、名目成長率と名目利子率が同率で上昇したときに基礎的財政収支にどのような影響があるか等について想定を置く必要があり、その想定次第で結果は幅をもったものとなる。



高橋洋一氏からの返信

高橋洋一氏から返信をもらった。以下、主要部分を引用する。

なお、引用に際しては、再返信で「いただいた返信の内容をブログ記事の中で引用(公開)して、構わないでしょうか? もし支障があるようでしたら、お手数ですが、早めにお知らせ下さい。」と断りを入れておいたが、別にプライベイトなことを話しているわけではないので、問題はないはずだと考える。
ご質問の件ですが、
成長率が上がると、プライマリー収支が改善することを前提にしています。
すると、高い成長率の場合、債務残高対GDP比を減少させることも可能です。(金利>成長率でも、成長率を高くしてプライマリー収支黒字にすればそうなります)
その場合、文章は少し修正して、同じ論法が適用できると考えています。
少し単純化しすぎた文章だと思いました。

これには、私が勘違いしているという指摘はないし、「少し修正して」、「少し単純化しすぎた文章だと思いました」という形でミスリーディングである点が認められている。それゆえ、今回の件はこれで良いと思う(もっとも、乏しい根拠だけでトリックだ、マジックだと決めつけられた財務省はたまったものではないだろうが...)。

ただし、読者一般の参考のために、若干の補足的な指摘をしておきたい。

先に取り上げたダイヤモンド・オンラインの記事では、1%の名目成長率と名目利子率の同時上昇が想定されていた。前の『経済セミナー』の記事でも、2%である。1~2%くらい成長率が高まったくらいで、現在足下では対GDP比で6%もの赤字になっている基礎的財政(プライマリー)収支が黒字化すると考える者はさすがにいないと思う。

簡単な計算から、
t1

であることが確認できる。したがって、公的債務残高の対GDP比の上昇が止まるための条件は、


になる。目の子算でいうと、現状、利子率と成長率の差は1%程度あり、公債残高の対GDP比は2倍に達しているので、基礎的財政収支が対GDP比で2%の黒字になることが必要な条件になる。

いくらなんでも、1~2%程度の名目成長率の上昇で、-6%から+2%へ計8%の基礎的財政収支の改善が起こるということはあり得ない(名目成長率と名目利子率が同率で上昇するケースを考えているので、利子率と成長率の差は変わらない)。そうしたことが起これば、それこそがマジックである。

しかも、公的債務残高の対GDP比が一定では、税収だけが複利計算で増え、利払い費は一定ということにはならない。ともに複利で増えることになる。論法を成り立たせるために想定されていたのは、公的債務残高の絶対的な値そのものが変わらない(増えない)ということである。そのための条件は、さらにきつい