……後年六人組やストラヴィンスキーに影響を与えたミュージック・ホールやジャズの好みをさきどりした《ミンストレル》とか《風変わりなラヴィヌ将軍》は、とびはねるようなリズムを生命とする《パックの踊り》やユーモラスな《ピックウィック殿礼賛》らとともに特別の私の好みというのでもない。同じようなことは《亜麻色の髪の娘》についてもいえる。これはまた、それにヴァイオリン独奏用に編曲されたりして感傷的にひかれすぎ、あまりにも通俗化されすぎてしまった。「名曲」の悲しい運命である。ちょうどショパンの《幻想即興曲》とか、モーツァルトの《Eine Kleine Nachtmusik》のように。こうなると、耳を新しくしてきき直すといっても、実際はちょっとやそっとのことでやれるものではない。というのは、曲自体の方にもーーいかに簡潔は芸術の美徳とはいえーー何かの原因があって、やたらと野外の公園や、家庭音楽会や通俗名曲の夕べでひかれすぎるようになる要素が存在しているのだ。(吉田秀和「ドビュッシー《前奏曲集》」『私の好きな曲』)
バッハのAirも、モーツァルトの《Eine Kleine Nachtmusik》と同じように、名曲の悲しい運命に遭遇したといってよいだろう。
まずSwingle Singers、あるいはMJQとのバッハのAirを貼りつけよう。
◆Bach:The Swingle Singers The Modern Jazz Quartet Air For G String1]
そして1990年の水戶室內管弦樂團との小澤征爾。
ーー小澤征爾は、カラヤン追悼1989でもWiener Philharmoniker で、この曲を演奏している。上の一年後の演奏は、日本におけるカラヤン追悼であるだろう。
◆Herbert Von Karajan - Johann Sebastian Bach - Air on the G String
だが、名曲の悲しい運命なんていっても、オレもバッハのAIRはSwingle Singers&MJQで最初に出会ったんだしな。気軽にきける曲だっていいさ。Bobby Mcferrinなんかその名曲の悲しい運命に抵抗した味わいだしてるしな。
…………
◆Air. J.S. Bach Bobby Mcferrin
◆Bach - Air on G String by Yo Yo Ma and Bobby Mcferrin