そもそも何のための増税なのだろうか。
4月1日から消費税率が8%に引き上げられた。僅か3%ポイントというが、6割の増税である。
今回の増税の大義名分は「日本の社会保障を守るための安定的な財源確保」とされ、社会保障の膨張で危機的な状況にある日本の財政を再建するためには、どうしても消費増税が不可欠であると説明されている。われわれの年金や医療保険を守るためにはやむを得ないと考え、厳しい経済状況の下で増税の苦難を甘受している人も多いにちがいない。
しかし、法政大学准教授で財政問題に詳しいゲストの小黒一正氏は、今回の消費増税では財政再建は達成できないし、社会保障も守れないと断言する。
仮に日本がアベノミクスでデフレから脱却し成長軌道に乗ることができたとしても、現在の日本の財政構造は社会保障関連の義務的経費が、増税による税収の増額分を上回るペースで増えているため、今回程度の増税では到底財政再建など夢のまた夢だというのだ。
小黒氏によると消費税を1%上げるごとに2.7兆円程度の増収が見込まれる。しかし、少子高齢化が進む中、社会保障関連費は毎年3兆円ペースで増え続けている。消費税1%の増収分はわずか1年で相殺されてしまう計算になる。今回は3%の増税だから、3年ほどで食いつぶす計算になるが、これでは社会保障関連費を賄うだけのために、3年後から毎年1%ずつ消費税を上げないと追いつかないことになる。しかも1%の増税では、辛うじて社会保障関係費の増加分を補うだけで、予算全体の不足分を解消して、貯まっている借金の元本を減らすなどとても無理な状況だ。
現在でも日本の一般会計予算が、50兆円規模の赤字で辛うじて運営されていることを考えると、仮に日本のGDP総額約500兆円が年2%ずつ成長して税収が増えたとしても、公債依存度50%、累積債務残高1,000兆円以上という惨憺たる財政の現状は全く変わらないことになる。アベノミクスでデフレから脱却し経済が成長軌道に乗れば、日本にも明るい未来への道筋が開けてくるかのような話が流布されているが、それは全くの誤解であり、安倍首相がどんなに力説しようが、また日本経済がどんなに成長軌道に乗ろうが、今後消費税は上げつつけなければならないというのが実情だと、小黒氏は言う。
それでは、日本が財政破綻を避けるためには、一体どこまで消費税を上げないといけないのか。小黒氏は、現在の財政構造では、毎年の歳入と歳出を同じ規模にして赤字を無くすという最低限の現状維持だけでも、「25%から30%の消費税が必要になるだろう」と試算する。しかもこれだけ消費税を上げても累積債務1,000兆円のうち、その利払いをかろうじてカバーするだけで、元本は丸々残ったままなのだ。
財政を再建するには、税収を増やして歳出を抑える以外に有効な手立てはない。しかも、ここまで財政状況が悪化したら、5年、10年ではなく、20年、50年の時間をかけて改善していくほかない。数パーセントの消費税率の引き上げや成長戦略だけでは全く焼け石に水だ。まずは年金や医療を含む社会保障制度を抜本的に見直すなどして、歳出を大幅に削減することが急務だが、今の政府にそれを実行する意欲も能力も、そしてその気概も、とても期待できそうにない。また、そもそも国民にその痛みを受け入れられる用意があるとも到底思えない。
ここで語られているのはまず、単年度「50兆円規模の財政赤字」を消費税だけ赤字をチャラにするためには、「25%から30%の消費税が必要になる」ということであり、これは単純計算してもそうなる。
小黒氏によれば「消費税を1%上げるごとに2.7兆円程度の増収が見込まれる」とあるが、計算しやすいように、消費税1%が2.5兆円だとしよう。とすれば50兆円の赤字は、20%の消費税に相当する。すなわち現在の消費税率に20%上乗せして「25%から30%の消費税が必要になる」ということだ。
ただし「社会保障関連費は毎年3兆円ペースで増え続けている」のであるなら、もしこの費用の見直し(削減)がなければ、これ以外に毎年1%強の消費税増が必要ということになる。
そしてもうひとつ、単年度の財政赤字をチャラにしても「累積債務残高1,000兆円以上」は残ったまま」とある。この金利支払額が9兆円程度なのだが、これがたとえば倍増したらどうなるのか。すなわち9兆円相当の消費税4%弱をさらに上げなければならない。とすれば、社会保障関連費によるアップもふくめ、消費税40%達成なり、--というのは計算上は冗談ではない(経済成長による税収増は考慮外ではある)。
小黒氏によれば「消費税を1%上げるごとに2.7兆円程度の増収が見込まれる」とあるが、計算しやすいように、消費税1%が2.5兆円だとしよう。とすれば50兆円の赤字は、20%の消費税に相当する。すなわち現在の消費税率に20%上乗せして「25%から30%の消費税が必要になる」ということだ。
ただし「社会保障関連費は毎年3兆円ペースで増え続けている」のであるなら、もしこの費用の見直し(削減)がなければ、これ以外に毎年1%強の消費税増が必要ということになる。
そしてもうひとつ、単年度の財政赤字をチャラにしても「累積債務残高1,000兆円以上」は残ったまま」とある。この金利支払額が9兆円程度なのだが、これがたとえば倍増したらどうなるのか。すなわち9兆円相当の消費税4%弱をさらに上げなければならない。とすれば、社会保障関連費によるアップもふくめ、消費税40%達成なり、--というのは計算上は冗談ではない(経済成長による税収増は考慮外ではある)。
元財務次官、元日銀副総裁、現東京オリンピック競技大会組織委員会の事務総長でもある武藤敏郎氏が取り仕切った大和総研のDIR30年プロジェクト「超高齢日本の30年展望」2013のシミュレーションにはこうある。
……ここで消費税率25%とは、かなり控えめにみた税率である。①医療や介護の物価は一般物価よりも上昇率が高いこと、②医療の高度化によって医療需要は実質的に拡大するトレンドを持つこと、③介護サービスの供給不足を解消するために介護報酬の引上げが求められる可能性が高いこと、④高い消費税率になれば軽減税率が導入される可能性があること、⑤社会保険料の増嵩を少しでも避けるために財源を保険料から税にシフトさせる公算が大きいこと――などの諸点を考慮すると、消費税率は早い段階でゆうに30%を超えることになるだろう。
明日、国債金利が上昇しても、1,000兆円全体に高い金利が適用されるのではありません。新規発行分と借り換え分のみです。現在発行されている国債のトータルの償還年限は8年です。従って理論的には、利払いが元々の国債が残る為、全体にかかる金利は徐々に上がってまいります。
ところで、小黒一正氏はこんなことも語っているようだ。
◆アベノミクスが失敗したほうが日本にとって被害は少ない(2013年6月11日)
日銀の黒田総裁が国債の大量購入を公式発表した翌日の4月5日から、利益を追求する海外の投資家たちは売りに転じた。結果、長期国債の金利は高騰。それは国と地方自治体が抱える借金の利払い費がふくれ上がることを意味し、日本は財政破綻へと突き進むという声も出始めている。
しかし、同時に経済成長を達成できれば、長期金利が上昇しても税収が増える分、それほど財政の負担になることはないのではないだろうか。元財務省のキャリア官僚で、現在は法政大学経済学部准教授の小黒(おぐろ)一正氏が解説する。
「昨年の国の税収入は約35兆円です。バブルの絶頂期でさえ、約60兆円ほどでした。それに対し、国と地方が抱える借金の合計額は1000兆円以上です(国の公債残高に地方自治体の借金額を加えると、1000兆円を軽く超える)。物価と金利は基本的に連動するので、アベノミクスが目指す2%のインフレ率に合わせて金利も2%になると、単純計算で日本の利払い費は数年で20兆円にもなる。ここに国債の償還費も10兆円以上加わります」
もし経済成長が頓挫すれば、日本は借金の利払い費と国債の償還費だけで、30兆円以上もの歳出が必要となる。しかも、必要なお金はこれだけではない。
「さらに、社会保障費の公費負担額は約40兆円で、これは毎年約1兆円ずつ増加していく。つまり借金の返済費と社会保障費だけで70兆円を超え、バブル期の税収入を大きく上回ってしまうのです。このギャップを経済成長で埋めて財政赤字を解消できる可能性は、極めて低いと言わざるを得ません」(小黒准教授)
長期国債金利は国の信用度が大きく影響する。このまま財政赤字が悪化すれば、長期国債金利が暴騰するリスクが高まるのだ。借金を1000兆円とすると、金利がたった0.1%上昇しただけで利払い費が1兆円も増えるのだ。もし金利が3%を超えたら……、想像しただけで背筋が凍る。
結局のところ、アベノミクスが成功すると、財政赤字が埋まらない程度の微妙な経済成長を得る代わりに、財政にトドメを刺すような金利上昇がついてくるのだ。逆に失敗すると、経済成長も物価上昇も起こらないが、金利も上がらないで済む。差し引きすると、アベノミクスが失敗したほうが日本にとって被害が少ないという計算が成り立つのだ。
どちらにせよ、アベノミクスはもう始まってしまった。今はまだ入り口付近にいるが、金融緩和は出口こそが難しいのだと前出の小黒准教授は警告する。
「金融緩和の際に日銀は大量の国債を買いますが、引き締めのときは国債を売るわけではありません。大量の国債を売れば国債の価格が下落し、金利が上昇してしまうからです。急に国債の購入をストップする場合も、国債の需給が急変し、長期金利は上昇してしまうので、ソフトランディングさせるためには出口のプロセスになっても国債の購入量を徐々に減らしながら買い続けなければならないのです」
黒田日銀と安倍政権にそんな繊細なコントロールが可能なのか。日本経済の先行きに不安は尽きない。
これは日銀首脳もかねてより怖れていることで、「アベノミクスの博打」(浅田彰)といわれる所以でもある。《黒田東彦総裁はことあるごとに、日銀の長期国債買い入れが長期金利に強い下方圧力を加えていると述べている。》(日銀は長期金利急騰を懸念 2014.4.25 ブルームバーグ)
──異次元緩和後の金利動向をどうみているか。
「金利に対しては2つの違う働きの効果が働いている。国債を大量に買い入れたため、名目金利やリスクプレミアムは下がる。一方、予想インフレ率が上がることで名目金利が上昇する要素もある。金融政策の結果、予想インフレ率が上昇し、実質金利が下がっているかどうかが一番大事だ。そうでなければ株や為替、実体経済に対する影響が出てこない。(現在の実質金利は)BEIでみるとマイナスだ」(岩田日銀副総裁インタビューの一問一答 2013年 06月 24日)
―― 8兆円程度、消費税で収入が増えるといっても、その何十倍もの借金があったんですね……。
家計だったら、少しくらい給料が上がっても、借金が減らないのであれば家計を切り詰めようと思いますが、報道では「今年の予算は95兆円超で過去最大」などと出てますね。 どうしてここまで膨らんでしまったんですか?
小黒 一言でいうならば、急速な高齢化で、社会保障(年金・医療・介護)の予算が急増しているからですが、それはまだ序の口です。
というのは、2025年には団塊の世代のすべてが75歳以上になるからです。その結果、2000年時には900万人に過ぎなかった後期高齢者(75歳以上)が2025年には2000万人に達し、医療・介護ニーズが急増します。医療・介護のコストは前期高齢者(60~74歳)よりも後期高齢者の方がずっと高いですから。
その点で、これまでは、ずっと一般会計の話をしていますけど、じつは国の予算は95兆円じゃないんですよ。
―― えっ!?
小黒国の予算には、「一般会計予算」だけでなく、「特別会計予算」があります。特別会計では、年金特別会計や労働保険特別会計などが有名ですね。さらに、国の予算ではありませんが「政府関係機関予算」といって、日本政策金融公庫など資本金が全額政府出資で設立された4つの法人(注1)の関連予算は、国会の議決が必要です。 今年度予算でいうと、95兆円というのは「一般会計予算」の額で、「特別会計予算」は約400兆円、政府関連予算は約2兆円です。
―― え! じゃあ足して500兆円くらいですか?
小黒 それがそうじゃないんです。 3種類の予算は互いに独立しているわけではなくて、相互に様々な財源の繰り入れが行われているんです。したがって、3種類の予算を単純に合計したものが国の予算規模というわけではないんですよ。実質的な国の予算規模は、ここ数年でいうとだいたい220~240兆円くらいです。
小黒 Bの「社会保障関係費」というのは、年金・医療・介護・生活保護などの費用です。上の図表は、国の予算のみですが、地方公共団体の予算も含めると、社会保障費は約110兆円に達しています。
これを「社会保障給付費」といい、内訳は年金が約50兆円、医療が約35兆円、介護が約9兆円です。年金や医療・介護は高齢者の数が増えると増加する予算であり、社会保障給付費は減らせないどころか、ここ10年間、年平均で2.6兆円のペースで増え続けています。
―― あと「その他」のなかにさらに「その他の事項経費」7.3兆円とありますが、このあたりは、中身がわからないのでちょっとモヤモヤしていますね。今年の秋にはさらに2%消費税を上げる決定が行われるともっぱらのウワサですよね。こまごま節約を積み上げたら1兆円、2兆円くらいなら減らせないのかと、庶民としてはどうしても思ってしまいます。
小黒 そうですね。その視点は重要で、公務員人件費、議員の歳費の効率化に限らず、行政一般の効率化、すなわちムダの削減に終わりはなく、不断の見なおしを続けていかなければならないでしょう。実際、政府は、最近の「行政事業レビュー」という事業の見直し・効率化の取り組みをはじめ、ムダの削減を常に行っています。
しかし、多くの人がイメージするほど日本の政府支出は水ぶくれしているわけではなく、社会保障以外の政策的歳出については、すでにかなりスリム化してきているのが現状です。
「ムダが多い」と言うのは簡単ですが、ムダと呼ばれているものが、じつは自分が日々使っている道路であったり、自分の子どもが通っている学校の先生の給料であるかもしれませんないのです。
なかには、だれの目にもムダな事業もあるでしょうが、そうした事業は金額的にはそう多くないのです。
―― たしかに、全体の割合としてはそれほど多くないというのは、逐一見ていかないとわからなかったですね。とにかく国債と社会保障が大きすぎるというのはよくわかりました。
小黒 前政権の民主党も、ムダの削減などにより16.8兆円を捻出するとマニフェストでうたいましたが、実際、ただちに壁につきあたり、鳴り物入りの事業仕分けでさえ、捻出できたのは数千億円にとどまっています。
「節約してよ!」という気持ちはたいへんよくわかるのですが、仮に「その他」の30.9兆円の「その他」を全て削減しても、40兆円近い借金を無くすことはできません。
―― じゃあ、どうしたらいいんですか???
小黒 兆円単位で歳出を削減するためには、社会保障費に手をつけるしかないのが現状です。
◆アベノミクスの経済成長が日本の財政問題にトドメを刺す
アベノミクスで円も株価も劇的に回復した’13年。しかし、この経済成長は一時的な財政拡大頼みの側面が強い一方、デフレ脱却後の金利上昇が日本の財政を窮地に追い込む可能性があると指摘するのは経済学者の小黒一正氏。
「消費税増税で景気が停滞すると危惧する人もいますが、その主張は税収増による将来不安の解消などのプラスの面を無視した話なので、一時的なショックを除き、消費増税で景気停滞が起きるとは思いません。それ以上に問題なのは、あの程度の消費増税では、アベノミクスでデフレ脱却が成功した場合、金利が上昇することによって起きる“利払費”の増加にとても対応できないことです」
グラフを見ると、平成元年度から、公債残高は急速に右肩上がりになっている一方で、利払費は10.6兆円から7兆円にまで下がっている。通常、債務が膨らめば当然利払いも増加するものだ。それなのに下がっているのはひとえに金利低下の効果が債務の増大を上回っていたからなのだ。
平成17年度からは利払費が緩やかに上昇している。金利の低下分では吸収しきれなくなったのだ。今後金利が上昇した場合、利払費が大幅に増加し債務残高とともに財政を圧迫することは必至だ(財務省作成資料)
「金利は平成17年度からほぼ横這い状態にあります。にもかかわらず、利払費は平成18年度を最後に上昇に転じ、平成25年度には一気に上昇し、10兆円に迫る勢いになっています。これはもはや“低金利”のボーナスタイムが終わったということ。さらにデフレ脱却が成功し、金利が上昇し始めると、低金利の恩恵を受けられなくなった利払費が急速に膨張していくことになります」
…………
以上、財務省出身である比較的若手の経済学者小黒一正氏の見解を中心にまとめたが、日銀出身の経済学者深尾光洋氏(慶應義塾大学商学部教授、元日本経済研究センター理事長)のアベノミクス導入前の論文からもいくらか抜粋しておこう。この論文は、三十年以上「経済学」から離れていたわたくしのようなものには、とても勉強になる。
本稿では、 日本経済をマクロ的な観点からとらえ、 日本の長期的な潜在成長率の低下、 長期化するデフレの実態、 政府債務と利払い負担などの現状を概観する。そのうえで、政府債務の GDP 比率を安定化させて、財政に対する信頼性を取り戻すためには、 少なくとも消費税で 20%程度に相当する 50 兆円程度の歳出削減ないし増税が必要であることを示す。 また今後利払い負担が急増する見通しであることを指摘し、 政府債務が巨額になってしまった現在では、 デフレからの脱却は政府の利払い負担を急増させることで政府信用を悪化させかねないことも説明する。
毎年の財政赤字も 2011 年には 48 兆円程度と GDP 比 10%に達したと推定され、きわめて高水準にある。仮に消費税を 10 ポイント引き上げて 15%にしたとしても、税収増は 24 兆円程度であり赤字を半分に減らすのが精一杯である。
政府債務 GDP 比率の上昇が止まり低下を始めるためには、 遥かに大幅なプライマリーバランスの改善が必要である。 一例として図表15は消費税を 2014 年から 2023 年までの 10年間、 毎年 1 月に 2 ポイントずつ引き上げ、 23 年の 1 月以降 25%にするケースを示してある。 このケースであれば、 政府の純債務 GDP 比率は消費税率が 19%に達する 2020 年にピークの 180%に達した後、 徐々に低下を始める。 プライマリーバランスは、 2024 年以降 3.4%の黒字となるが、この時点でも利払い負担が GDP 比 2.6%あるため利払い負担を調整した黒字幅は小さく、 政府債務 GDP 比率は非常にゆっくりとしか低下しない。 実際に財政赤字を削減するためには、 消費税だけの増税を行う必要は無く、 所得税、 法人税、 社会保険料、税外収入、 固定資産税など、 どんな税目で増税を行ってもよいし歳出削減を行っても良い。
消費税を 25%まで引き上げても、金利が少し上昇すれば、政府債務は増加を続けてしまう。例えば政府の平均借入金利が 2016 年の 1.5%から 21 年に 2.5%まで毎年 0.2 ポイント上昇を続けるケースを見たのが図表16である。この場合には、プライマリーバランスの3.4%の黒字では、利払い負担の GDP 比 4.6%をカバーしきれず、負債 GPP 比率は上昇を続ける。このように、政府債務が巨額になると、小幅の金利上昇でも政府債務は安定化できなくなってしまう。
「金利以外の経常収入」+「金利収入」+「国債発行」
=「金利以外の経常・投資支出」+「金利支出」+「国債償還」 (1-3)
プライマリーバランスは、「金利以外の経常収入」から「金利以外の経常・投資支出」を差し引いた金額であるから、上の式を整理すると次の式が得られる。
「プライマリーバランス」+(「金利収入」-「金利支出」)
=「国債償還」-「国債発行」 (1-4)
簡単に言えば、
「プライマリーバランス」+「純金利受取」=「国債のネット償還額」 (1-5)
現在の日本では、プライマリーバランスは赤字で、金利は支払い超過、国債は発行超過であるから、次の式の方が直感的に分かりやすいだろう。
「プライマリーバランス赤字」+「純金利支払」=「国債のネット発行超過額」 (1-6)》
6. 日本の財政破綻シナリオ
4節の日本の財政バランスのシミュレーションを読み進まれてきた読者には、日本の財政破綻のシナリオがイメージできるだろう。概略、次のようなシナリオである。
(1)選挙民を恐れる政治家が増税を先延ばし続けて政府の累積赤字が拡大する。この結果、金利上昇による利払い負担増加のリスクが蓄積されていく。
(2) 日本の金融資産の大部分を保有する 50 歳以上の高齢者層も、 政府に対する信頼を徐々になくし、円から不動産、株式、外貨、金等に資金を移動し始める。
(3)長期国債価格が下落し、長期金利が上昇を始める。
(4)新規発行や借り換え国債の利払い負担増加に直面した政府が、発行国債の満期構成を短縮し、主に短期国債で赤字をファイナンスするようになる。日銀がゼロ金利政策を続けている間は、 政府の利払い負担は増加せず、 財政破綻を先延ばしできる。 しかし同時に、国債の満期構成の短期化は、将来の短期金利の上昇で、政府の利払いが急増するリスクを増大させる。
(5)政府の財政悪化に伴い、上記(2)の資金シフトが加速する。特に高齢化に伴う貯蓄率の低下や財政赤字の拡大によって経常収支が赤字化すると、大幅な円安になるリスクが高まる。実際に円安、株高が発生すれば、景気にはプラスとなりバブル的な景気回復を達成する可能性もある。そうなればインフレ率も上昇し始める。景気回復は税収を増大させ、財政赤字を減少させる。この時点で大幅な増税と赤字の削減が出来れば、財政破綻は避けられる可能性がある。
=>この場合、政府はタイミングの良い増税で健全化を達成できる。
しかし政府が増税に躊躇すると、以下のシナリオに突入する。
(6)日銀はインフレ率の上昇に対して金利引き上げによる金融引き締めを行うが、これで政府の利払いが爆発的に増大し、政府の信用が急激に低下する。
(7)政府が日銀の金融政策に介入して、低金利を強制したり、国債の買い取りを強制したりすれば、インフレがさらに加速し、国債価格は暴落する。
(8)金利の急激な上昇で長期国債を大量に保有する銀行が、巨額の損失を被り、政府に資金援助を要請する。
(9)政府が日銀に国債の低利引き受けを強制する場合には、政府は利払い増加による政府債務の急増を避けることが出来る。この場合は、敗戦直後のインフレ期と同様に、政府債務を大幅に引き下げることが可能で、政府は財政バランスの回復に成功する。しかし、所得分配の上では、預金や国債、生命保険、個人年金などの金融資産を保有する人々が、その実質価値の喪失で巨額の損失を被る。
=>この場合、政府はインフレタックスにより財政を健全化できる。しかし金融資産の実質価値の大幅低下により、生活資金に困る多数の人々を生み出す。