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2013年5月9日木曜日

三人の洒落者


三人の洒落者
歌舞闘技場の砦柵を跨ぐ
一人は燕の尾を萎らせ
拮据の汗の雫を白布で拭う
二人は陶酔の角逐に紅潮し
粉薫剥げ落ち雪隠へ急ぎ足
さあこれからが正念場
闘技より余興を好む
孔雀たちの熾烈な刻限
嬌笑の稽古に余念がない
一人は裏口で金勘定
斎戒の涓露で軀を塗す
もう一儲けの座興の因縁
「ああかけすが鳴いてやかましい」
燕尾で鼠蹊の御祓の時間




三人の洒落者
深夜の食卓につく
短髪の一人が献立を捲る
腱鞘炎の一人の指が酒を注ぐ
長髪の一人は繊手を見せず
卓子の下でスカートを引っ張る
足を組み組んだ足をまた解く
左肘と両膝が動き止まない
忙しなく抜け目ない仕草
燕尾と河童の款語に空騙り
大垂髪は膝の効果覿面ならず逸る心
「はやく決めてしまいましょう!」
挑発の一人俄然献立表を掻っ攫う
一人に狗肉の腸詰
一人に蝸牛の蒸煮
一人に乾鮑の酒蒸
「これでいいわ、ご一緒しましょ」
馥郁の蜜色酒をもう一瓶誂る
山羊の陰嚢瓶の底に慈みの掌を添えて
指股の余焔の一人の手間を省く




三人の洒落者
一人は立ち去る
待ち倦む若鴨の股を覘きにゆく
残された劫臘の孔雀二人
忽ち謹厳になる
勘定の計算をする
「で、あなたの分は? いくらあなたに渡したらいいの?」
「で、あなたの分は?」
一人は相方の盆窪の香に顰面す
耳殻の背
耳朶の丘
乳房の谷
「あなた、ちょっとつけ過ぎていない? 匂が強すぎるわ」
二人の腋窩膝窩に微汗滲み
「かすかに腐敗臭のまじる
甘く重たく崩れた香り―――、
それと気づけばにわかにきつい匂いである」
実は溶けて快楽(けらく)とならず
果芯は腐って死臭の瀰漫
燕尾の皿に年波鮑の食遺し