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2013年5月5日日曜日

あだしごとはさておきつ


「閑話休題」ってのは、「あだしごとはさておきつ」、とも読むらしいね、知らなかったなあ。


 閑話休題あだしごとはさておきつ。妾宅の台所にてはお妾が心づくしの手料理白魚の雲丹焼うにやきが出来上り、それからお取りぜんの差しつ押えつ、まことにお浦山吹うらやまぶきの一場いちじょうは、次のまきの出づるを待ち給えといいたいところであるが、故あってこのあとは書かず。読者りょうせよ。ーー(永井荷風『妾宅』)

いいねえ、心づくしの白魚の雲丹焼なんて。粕漬けなんかでもいいなあ、喰いたいなあ


…………

三度の飯は常食にして、佳肴山をなすとも、八時になればお茶菓子もよし。屋台店の立喰、用足の帰り道なぞ忘れがたき味あり。女房は三度の飯なり。立喰の鮓に舌鼓打てばとて、三度の飯がいらぬといふ訳あるべからず。家にきまつた三度の飯あればこそ、間食のぜいたくも言へるなり。此の理知らば女房たるもの何ぞ焼くに及ばんや。(荷風散人『四畳半』)


 やおら卓袱台にかけ上がり 見上げる奥さんの顔を38文で蹴り上げ いやがり柱にしがみつく奥さんの御御足をばらつかせ NHK体操風に馬乗り崩れてくんずほぐれつする奥さんを 御小水に畳が散るまで舐めあげ 奥さんの泡吹く口元に蠅が止まるまで殴り倒し ずるずると卓袱台にのせ さあ奥さんいただきまあす 満点くすぐる奥さんりコマネチ風太股をひらいて奥さんの性器を箸先でさかごにほじり 食べごろに粘ってきたところで ぼくの立ち魔羅に海苔を巻いて・・・・・(「ヤマサ醤油」ねじめ正一)



私は人妻を組み敷いて、残りの着衣をはぎ取ってゆく。上体を縛ってあるので、あっという間に下半身むきだしだ。それから自分のズボンのベルトをはずす。そのとき、ふと眼を落すと、人妻の腹が波打っていることに気づいた。強姦において、たまさか女がエクスタシーに襲われることがあるにしても、しかし、いくらなんでもまだ早すぎる。だとすれば、笑っているのだ。・・・・・(野村喜和夫『速度の虜』)



ある夜、あんまり女がうるさく邪魔をするので、私は彼女をおさえつけ馬乗りになって、ありあわせのシャツやネクタイやで女の手脚をかなり強く縛った。女はそれに異常なほどの興奮で反応した。……丸太棒のように蒲団をころげながら、女はシーツにおどろくほどのしみをつくったのだ。それからは、……私も習慣のようにほどけないように背中でその手首を縛り、抱きかかえるようにして蒲団に寝かせてやる。
 ……煙草をつけて背後の女を振りかえった。……「ほどく?」と私は訊ねた。が、女は目で微笑するとゆっくりと首を振った。(……)私は何気なく女の目に笑いかけた。女も私を見て笑い、その目と目とのごく自然な、幸福な結びつきに、突然、私は自分がいま、狂人の幸福を彼女とわかちもっているのをみた。 (山川方夫『愛のごとく』)






……露わになった腋窩に彼が唇をおし当てたとき、京子は嗄れた声で、叫ぶように言った。

「縛って」

その声が、彼をかえって冷静に戻した。
「やはり、その趣味があるのか」
京子は烈しく首を左右に振りながら、言った。
「腕を、ちょっとだけ縛って」
畳の上に、脱ぎ捨てた寝衣があり、その傍に寝衣の紐が二本、うねうねと横たわっている。
京子の両腕は一層強力な搾木となる、頭部を両側から挟み付けた。京子は、呻き声を発したが、それが苦痛のためか歓喜のためか、判別がつかない。(吉行淳之介『砂の上の植物群』)



話の腰を折ることになるが、――尤、腰が折れて困るといふ程の大した此話でもないが――昔の戯作者の「閑話休題」でかたづけて行つた部分は、いつも本題よりも重要焦点になつてゐる傾きがあつた様に、此なども、どちらがどちらだか訣らぬ焦点を逸したものである。鏡花との一夕 (折口 信夫)