「きいた風なことを言うのには飽きちゃったよ
印刷機相手のおしゃべりも御免さ
幽霊でもいいから前に座っていてほしいよ
いちいち返事されるのもうるさいけど」
――谷川俊太郎「夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった」5番より
柄にも似合わないこと書いちゃだめだな
あんなことオレにはどうだっていいんだよ
わかるかい?
「きみはウツ病で寝てるっていうけど
ぼくはウツ病でまだ起きている
(……)
きみはどうなんだ
きみの手の指はどうしてる
親指は親指かい?
ちゃんとウンコはふけてるかい
弱虫野郎め」
――同8番より
やめとけよ
「アタシ淋しいんです」
「どうかアタシのことカマッテください」
のメタ・メッセージしかないぜ
淋しい同士で慰め合いかい
「おぼえがありませんか
絶句したときの身の充実
できればのべつ絶句していたい
でなければ単に唖然としているだけでもいい」
――同14番より
いや好きにしたらいいい
いちいち返事されるのがうるさいだけさ
《対話者同士の定期的な会合から期待し得るものは
ただ好意だけである》(バルト)だからな
オレはそんなものはいらないだけさ
「何故やっちまわないんだ早いとこ
ぼくは自分にかまけていて
きみらがぼくの年令になるまで
見守ってやるわけにはいかないんだよ」
――同1番
相手がいなかったなら
腰の奥の力の圧力抜きしてみろよ
《「瞑想」によく集中できるように、ムダな神経を使わないことにしたい。周囲を気にかけないで、必要なら自由にマスターベーションをすることをすすめたい。腰の奥の力に押しまくられて、---もうだめだ、これ以上はガマンできない! と自分にいいながら、ベッドから這い出すようなことはないようにしたい。
なんとも心が苦しい時、いくらかでもそれをまぎらすためにマスターベーションをするならば、それはアルコール飲料に走るよりも健全だと思います。マスターベーション依存症という話はきいたことがありません。動物園の猿の話は聞いたように思うけど、すくなくとも人間でいうかぎり…… 圧力抜きをすれば、また圧力が増してくるまでは、しばらくなりと「瞑想」に集中できるでしょう。》(大江健三郎『人生の親戚』)
なあ、おい
「話題を変えよう」(同10番)
大江のセブンティーン第二部「政治少年死す」ってのは
ウェブ上にあるんだな
いくつかの誤入力はあるようだが
捨てたもんじゃない
《右翼が恐くで出さぬ『政治少年の死』を出版しろ、と自分に迫っていた文章を思い出し、憮然としたのである》(大江健三郎『取り替え子』)
って奴だかね
《おれは奇妙に寂しくてたまらず、裏切られたような、うろ寒さを感じて、静謐のなかに安定している傲然とした国会議事堂をながめた、それは他人の城だ、よそよそしい。》
「静謐」ってのは70年代に活躍した
おふらんす系の作家がよく使ったんだよな
オレもいかれたほうだがね
《老いたる者をして静謐の裡にあらしめよ
そは彼等こころゆくまで悔いんためなり 》(中原中也)
ってのもあるが
八〇年代以降、本の帯文や音楽批評で濫用されるようになって
陳腐化したね
いまでも松浦寿輝とか佐々木中などが使用して
はっとすることはあるし
彼らに文句をいうつもりはないがね
《「言葉が軽い」のと「言葉に軽みがある」のとは断じて違う。無闇と振り回さないと決めて大事にしている語彙はあるか? 安易に流れるから絶対使わない言葉は? 重々しい言い方で、だらしない共感をもとめていないか? 純粋素朴を装い、自らの密かな欲望から目をそらして言葉を使っていないか? 》(佐々木中)
無闇と振り回さないように決めた語彙だな
あるだろ、誰にだってさ
「たとえば<愛>という言葉の中身が、年齢とともに経験を重ねて、私の場合若い頃に比べて深まっていると感じています。同じようなことが震災という言語化し難い大きく深い経験によって、多くの人にたとえば<絆>という言葉に起こったのではないかと考えられます。しかしメディア上で多用されるにつれて、この言葉の中身は急速に軽く薄くなってゆき、個人の心の中ではかけがえのない大切な言葉だったものが、ただの決まり文句に堕していったのも事実でしょう」(谷川俊太郎)
――ということはあるよな、使えない言葉が出てくるってこと
震災にかかわる言葉とは限らないよ
ことさら耐えがたいのは
下品な文学趣味の弱虫野郎だな
「目の前の現実に対して言葉は既成の言葉の中からほとんど自動的に選ばれる。つまりは美文が生まれる…要するに銭湯の壁画みたい」(大岡昇平)なんだよな
静謐は由緒ただしい言葉のようだがね
竦肃肃以静謐,密微微其清閒
オレには「静謐」は「聖櫃」だな
ところが「どうかアタシのことカマッテください」のたぐいの
ナルシシスティックなお嬢さんが
静謐の語を使っているのをみかけると
「性櫃」という漢字に想到するのだよ
「櫃」というのは小箱であって
《小筥、箱、大きめの箱、箪笥、長持、暖炉、その他洞穴、船、容器類いっさいは女体の象徴である。――夢の中の部屋は大抵の場合「女」、部屋の出口、入口が表現されていればこの解釈はますます疑いのないものになる。部屋が「あいている」か「しまっている」かという関心は、この関連において容易に理解されるだろう(『あるヒステリー症分析の断片』におけるドラの夢を参照)。さてその部屋の扉がどういう鍵で開かれているかは改めていう必要はなかろう。》(フロイト『夢判断』)
――というわけで、「性膣」なんだなあ
失礼した、下品だな
「話題って変わりにくいな」(同10番)