以下、古い文献と新しいレポートを織り交ぜたメモ。
一般に成長期は無際限に持続しないものである。ゆるやかな衰退(急激でないことを望む)が取って代わるであろう。大国意識あるいは国際国家としての役割を買って出る程度が大きいほど繁栄の時期は短くなる。しかし、これはもう引き返せない道である。能力(とくに人的能力)以上のことを買って出ないことが必要だろう。平均寿命も予測よりも早く低下するだろう。伝染病の流入と福祉の低下と医療努力の低下と公害物質の蓄積とストレスの増加などがこれに寄与する。ほどほどに幸福な準定常社会を実現し維持しうるか否かという、見栄えのしない課題を持続する必要がある。国際的にも二大国対立は終焉に近づきつつある。その場合に日本の地理的位置からして相対的にアジアあるいはロシアとの接近さえもが重要になる。しかし容易にアメリカの没落を予言すれば誤るだろう。アメリカは穀物の供給源、科学技術供給源、人類文化の混合の場として独自の位置を占める。危機に際しての米国の強さを軽視してはならない(依然として緊急対応力の最大の国家であり続けるだろう)。
世界経済は、 著しく高齢化する中国のプレゼンスが低下し、 経済の中心は依然として米国であり続けるだろう。
世界経済を長期的に展望するとき、各国の栄枯盛衰が見込まれるなか、米国経済が凋落することなく相対的に強いポジションを維持していくという見方は大方で一致していると思われる。良好な経済パフォーマンスが一定の出生や移民を維持しており、反対に出生や移民が経済パフォーマンスを支えるという双方向の因果関係があると考えられるが、現状でも欧米先進国のなかで例外的に人口が増えているという好循環の構図が米国にはあるという点が重要である。欧州のソブリン問題も、結果的に米国の覇権を再認識させていると思われる。
米国の高齢化の進展速度は、中国やブラジル、インドといった新興国と比べても緩やかである。米国が若さを保つチャネルの一つは移民だが、オバマ大統領は 2 期目の就任演説の中で移民制度改革に言及しており、 1,000 万人を超えるとされる不法移民の取り扱いに加えて、 高い技術を持つ者の受け入れに一段と積極的になれば、潜在成長力を押し上げることにつながろう。長期的な強みに綻びが見え始めているといわれる米国だが、他の国々に比べると若さを維持する人口構造になっている。
<世界の構図を変える可能性を持つ米国のシェール革命>:技術革新によって開発・利用可能になったシェールガス・シェールオイルの増産(シェール革命)で、米国は 2020 年頃までには世界最大の原油生産国になると国際エネルギー機関(International Energy Agency :IEA)は見込んでおり、米国内のガス需要は 2030 年頃には石油を抜いてエネルギーのなかで最大のシェアになるという14。 世界的にみても、 ガス需要は大幅に増加すると予想されているため、米国にとってこれは重大な変化である。実際、米国がエネルギー輸入国から輸出国に転換する可能性も示唆されている。
世界の実質 GDP 成長率は、当面は平均年率 4%強で成長するものの、2020 年頃からは成長率が低下していくものと見込まれる。その原因は、世界 GDP 成長率の約半分を占める中国の寄与度が労働力人口の減少により、2020 年前後から低下するためである。予測の最終年である 2040 年においては、世界 GDP 成長率の寄与度はまだ中国が大きいものの、次第に米国とインドの寄与度が高まっていく。米国も高齢化による労働力人口の減少の影響を免れることはできないが、移民の流入でその影響が緩和されることや、インドは他国と比べて人口構成が若いため、労働力人口の低下のスピードが遅く、相対的に高めの成長率が維持されるものと考えられるからである。そのため、世界経済の牽引役は、中国から徐々に、米国やインドへと移り変わるものと考えられる。
米国連邦準備制度理事会(FRB)が大手金融機関に課した 2013 年のストレステストでは、最悪の景気悪化シナリオとして、米国自身の深刻な景気後退に加えて、中国経済の大幅な減速に起因する世界経済の悪化をダウンサイドリスクに想定した。一年前の同テストでは、欧州経済の悪化・金融市場の混乱がリスク要因だったが、今回はやや様変わりし、それだけ中国の存在が無視できなくなっている。
中国の高齢化が急速に進むとみられる背景の一つは、1979 年から導入されている“一人っ子政策”であり、同政策によって出生率は急激に低下した。同時に経済発展によって死亡率が低下した結果、人口ピラミッドの形がいびつになってきた3。2010 年時点で中国の 65 歳以上人口が全人口に占める割合 (高齢化比率) は 8.2%に達し、 経済発展の途上段階で人口構造の成熟化が進んでいる。高齢化に伴う社会的コストが増える一方で、その費用を負担する現役世代の伸び率が鈍化している状態であり、今後中国では現役世代の負担感が大幅に高まっていくと予想される。
具体的に、高齢者人口(65 歳以上)を生産年齢人口(現役世代、15~64 歳)で割った老年人口指数を求めてみると、 2010 年時点では 100 人の現役世代で 11 人の高齢者を支えていたが、 2020年には 17 人、2050 年には 42 人を支えることになり、約 4 倍の負担になる。
今後の中国は、これまでの 2 桁台の高い成長率から質の伴った安定成長へスムーズにシフトするという目標を実現しながら、社会保障制度など膨張する費用を賄わなければならない。例えば、子どもが 1 人しかいない家庭では高齢者介護が大きな負担になるために、年金補助制度などを強化していく方針であるという。
ちなみに、 日本において高齢化比率が中国の 2010 年と同じ 8.2%を上回ったのは 1977 年であった。中国の現在の経済規模は日本を抜いて世界 2 位だが、1 人当たり名目 GDP(2010 年時点)は 4,400 米ドル程度であり、 1977 年当時の日本の 1 人当たり名目 GDP6,100 米ドルを下回っている。この間の生活水準や物価の変化を考えれば、その格差はより大きい。単純な比較はできないが、中国では人々の生活が豊かになる前に高齢化が始まっている。
◆柄谷行人 岩井克人対談集1990『終りなき世界』より
岩井)ぼくは、アメリカの資本主義とは、世界資本主義のなかで特別な位置を占めてきたし、これからも占めていくと思っているのです。没落したと言っても、当分のあいだ没落しえない構造になっている。
柄谷)もちろんそうですけれどもね。しかし、ぼくはやっぱり戦後アメリカが世界に進出したことが、むしろ彼らの本来もつ孤立主義というかモンロー主義に抵触するように思うんです。没落ではないが、内にこもるという気がする。
岩井)ただぼくね、そのアメリカに関する認識が柄谷さんとちょっと違うなと思うのはね、アメリカの資本主義には二重性があると思ってる点なんですよ。ひとつは、ドイツや日本と同様に国民経済としてのアメリカです。共同体的なアメリカと言ってもよいかもしれない。
ただ、アメリカの場合、もうひとつ、自分の中に世界資本主義そのものを抱えているアメリカというのがあるんです。もちろん共同体としてのアメリカというのは非常にモンロー主義ですね。でも同時にやっぱり、移民を受け入れ、国の中にあらゆる民族がいて、しかも商品も資本もかなり自由に行き来できるというアメリカというのがある。これは、まさに世界資本主義の縮図なんですよ。それゆえ、アメリカはみずからの中に世界資本主義を抱える国として、まさに広義の世界資本主義のなかで特異な位置を占めているわけです。世界はたしかにアメリカ、ヨーロッパ、アジアという三極構造になっていくとは思うんですが、同時に三極の第一番の極であるアメリカのなかに、世界資本主義の縮図が織り込まれているという構造になっていて、必ずしも純粋な三極構造じゃないと思うんですね。三極プラス世界それ自体という、複雑な入れ子構造ですね。
アメリカの内部にあるこの二つの資本主義、それはアメリカにおける民主主義と自由主義ということかもしれないのですが、それはけっして民主党と共和党という対立には還元できない、もっと根源的な内部構造なんだと思います。そして、このアメリカ内部における世界資本主義のダイナミズムが、たんなるアメリカ、ヨーロッパ、アジアという拡大された国民経済の三極のあいだの勢力関係以上のダイナミズムを世界にもたらし続ける気がしますね。日米経済摩擦というのも、やはり同時にアメリカの内部における二つの資本主義のあいだの対立の問題の反映であるとみることもできる。九十年代において、三極構造だけでは理解できないダイナミズムがありうるわけで、これをやっぱりみていかないといけないような気がしますね。
柄谷)それは同感ですが、ぼくが言いたいのは、アメリカにあるモンロー主義の可能性をむしろ見てなきゃいけないということなんですよ。つまりあまりにも戦後のアメリカに慣れすぎて、むしろモンロー主義が基底にあるということを忘れているのではないかと思うんですね。アメリカのナショナリズムの思想的元祖は、エマソンですね。彼は、日本の本居宣長とある意味でよく似ているんです。彼のトランセンデタシズムは、歴史や伝統を切断して、自分の内部と経験に問えということですが、これは別の意味で、アメリカのナショナリズムです。なぜなら、歴史や伝統はヨーロッパのものだからです。
エマソンは「ヨーロッパへ行くな」とも書いている。これは、宣長が「漢意」を批判して、おのれ自身の心(もののあはれ)を重視したのと平行しています。日本の場合と同様に、これは、反インテレクチュアリズムとして根強いですね。ただし、日本と違って、インテリのほうも頑固で根強いですが、と言うのも、インテレクチュアルはヨーロッパから直接に来ていますからね。書物だけが来るのではない。とにかく、このエマソン主義は、政治的な表現をとるかどうかは別としても、アメリカの思想的基底にあるものだと思う。この意味で、ぼくはアメリカは巨大な「島」だと思っているんです。
アメリカが実際に閉鎖的になると、世界的に影響しますね。たとえば明治の末、日本人移民の締め出しが起こった。江藤淳の説によると、石川啄木の「時代閉塞の現状」というのは、アメリカが日本からの移民を拒絶したということから来るらしい。つまり日本の空間から出る道がなくなったったわけですね。それは日本だけじゃない。一九三〇年代、ヨーロッパでファシズムが起こったのは、アメリカの移民制度のせいだという説もありますね。
岩井)全くその認識は正しいと思います。アメリカがみずからの内にある世界資本主義を閉塞させてしまうと、世界は単純な多極的な構造になって、共同体と共同体がじかにぶつかり合うという不安定性が増幅してしまう。今度の東ドイツから西ドイツへ大量の移民が逃げたということもあるけれども、やっぱりアメリカという国が長い間東ヨーロッパやソ連から移民を受け入れてきたということが大きかったんだと思う。これが、東ヨーロッパやソ連を世界資本主義のなかに巻き込んだ現実的な力として働いたんですね。そういう意味での、アメリカの勝利なんですよ。西欧民主主義などという原理の勝利じゃなくて、移民を受け入れるという事実の勝利なんです。
柄谷)そうですね。ぼく自身、亡命ということ、移住ということを考えたとき、やはりアメリカしか考えてないですね(笑)。現在でも、世界で亡命しうる国と言えば、じつはアメリカ以外はない。
岩井)ぼくもそうですよ(笑)。かつてスピノザの両親がポルトガルからオランダに亡命した。あのときはオランダというのが世界資本主義の中心地だった。亡命できる都市と世界資本主義の中心地というのは、必然的に一致するんですね。やっぱりその意味ではアメリカがこれからも亡命の地であるということで、まさにその限りにおいて世界資本主義の中心地としての地位を保っていくんじゃないかと思います。
柄谷)日本は絶対に亡命の地じゃない。ぼくは亡命の地たりうるかどうかにおいて、その国の「自由」の度合い、あるいは、世界資本主義における比重を測りうると思いますね。
岩井)ほんとにそうですね。
柄谷)ある意味で、東欧・ソ連問題というのは、アメリカ人からみたら、みんな親戚の問題ですね。以前たまたまヴィデオを見たんだけど、アルメニアの大地震のときに、BBCがニュースを二時間ぐらい特集しているんですね。アメリカのアルメニア人がみな集まってワイワイ言ってるわけです。地震が起こったところはソ連ですよ。だけど、それに関してものすごい救援活動をやるんですね。テレビも大々的に支援する。これは、日本人がアメリカという国にもっているイメージに合わないところだと思います。
岩井)特にアルメニアなんてのは国自体がなくなったでしょう。ソ連の中に吸収されたし、残りはトルコの中に一部あるということで。アメリカが逆にアルメニアのいちばん利益代表というところがあるでしょう。
柄谷)だから、ぼくは、アメリカの帝国主義としての世界進出という面は確かにあるけれども、もう一方に、本質的に世界的にならざるをえないところがあると思う。というのは、結局外国から生身の人間が来ているということですね。だから、アメリカ人は世界中の人間が潜在的にアメリカ人だと考えており、その意味で「外部」がないんですね。自分たちの原理はどこにでもあてはまるべきだと思っている。それは、「世界の警察」のようにふるまうアメリカ国家とはまたべつのレヴェルですが。
上の柄谷行人の発言のなかに「反インテレクチュアリズム」という語が出てきていることに注目しておこう。
《いまやヤンキー化の進行はとどまるところを知らない。気合とアゲのバッドセンス、ポエム化の蔓延、現場主義のリアリズムと夢を語るロマンティシズム、「知性より感性」の反知性主義。ヤンキー化の源泉をさぐることで、あたらしい「日本人」の姿が見えてくる。》(斎藤環「ヤンキー文化と日本文化」――「日本精神分析2.0」)
日本は、岡倉天心が『東洋の理想』で書いたように、アジアの諸文化・思想がどんどん入ってきて、排除もされず累積してきた貯蔵庫のようなところがある。もちろん、排除しないというのは、それ自体が排除の形態なので、つまりは、何の影響も受けないということです。アメリカもじつはそうです。しかし、実際の人間が来る。日本に来るのは文物だけです。たとえば、われわれにとって、中国はいうまでもないけど、インドの哲学とか芸術とか言えば、なにか懐かしいような感じ、われわれの一部であるような感じがあります。しかし、インド人がこの国に来たわけじゃないから、たんにイメージなんですね。
岩井)だからアメリカについて、石原慎太郎がアメリカをレイシズム(人種差別主義)と非難したけれど、あれは的が外れている。とくにアメリカの場合、まず当たり前のこととして、国内に多民族を抱えているでしょう。たとえばフランシス・フクヤマがいい例で、日系人やアジア系がかなりのパーセンテージいるわけだし、そんなに単純なかたちのレイシズムにはなれない。
柄谷)アメリカには現に多数のレイスが共存しているのだから、レイシズムは確かにあるし、陰では悪口を言うかもしれないけれど、けっして公言できませんね。たとえば、「ジャップ」とか言えないのは、日本人が抗議するからではなくて、日系アメリカ人がいるからです。ハワイみたいに、日系人が州知事をやってるようなところもあるわけです。
岩井)それから上院議員が二人ぐらいいますしね。アメリカ政府は戦時中の強制収容所の賠償金を日系人に支払いはじめましたね。これらの議員の尽力ですね。
柄谷)しかし、それじゃ日系人が、プロ・ジャパンかと言うと、そうではないわけですよ。
岩井)そう、全然ない。日系人だから賠償金に関する法律を通すんだというのではなく、一応アメリカ人として、戦時中のアメリカ人が本来の道義性を失った行為を同じアメリカ人にしたことの賠償だという論理を使ってね。
柄谷)だから、ああいう単純なレイシズム非難に対しては、日系人も怒ると思うんですね。レイシズムの一言ですむんだったら、戦後四十五年間の日系人の戦いはなかったことになるんですね。それは、アメリカ人としての、アメリカの理念のための戦いだったわけで、彼らはアメリカ人としての誇りを持っているわけですから。アメリカ人が日本人を人種差別しているという単純な言い方に対しては、むしろ彼らが怒ると思うな。それだったら、日本人のほうがはるかにレイシストですからね。
岩井)ぼくは日本人は百パーセント、レイシストだと思いますよ。日本のコマーシャルに典型的に出てくるあの白人崇拝というのが、逆方向のレイシズムでしょう。アジア蔑視、白人優越主義の裏返しですよね。もちろん、いろいろな肌の色の有名人も出ますけれど、それは有名人だからなだです。つまり下士官根性の現われなわけですよね。上に媚びて、下に威張るというね。明治以来、日本は常にそうだったと思うんですね。そして、それと同時に、白人もふくめた意味での外人排斥的なレイシズムもある。(柄谷行人 岩井克人対談集『終わりなき世界』1990)
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※附記:毎日新聞の記事2010、「特集ワイド:この国はどこへ行こうとしているのか 建築家・磯崎新さん」より(リンク切れになっているが、以前メモしたものから)
米軍普天間飛行場移設問題などでは米国との関係に揺れ、中国には今年にもGDP(国内総生産)で追い抜かれる。政権交代はしたものの、鳩山政権は視界不良だ。
日本は鎖国状態でやっていけますか? 「日本は鎖国状態を恐れる必要はありませんよ。今の日本は、米国から外される、中国から追い抜かれるとビクビクしている。だけど、日本はむしろ孤立した方がいいんです」。意外な答えが返ってきた。
「僕はこの鎖国状態の期間を『和様化の時代』と呼んでいいと思います。歴史を見れば、和様化の時代は、輸入した海外の技術を徐々に日本化していく時期にあたります。今はこの和様化、つまり『日本化』を徹底する時期だと思いますね」
磯崎さんに言わせれば伊勢神宮もしかり。漢字とひらがなが入り交じった日本語も、外国語をいかに日本化するかを考えたことから今の形となった。戦 後で言えば、自動車やカメラだ。日本が始めた産業ではないにもかかわらず、実用化、大量化、精密化して世界の群を抜く製品化に成功した。
「どう言ったらいいんですかね」などと言葉を探しながら語る磯崎さん。
「歴史を振り返ると、日本人は鎖国状態の時期、非常に細かい技術を駆使して、発案した人たちを脅かすものをつくり続けてきた。そして、その時期にできた日本語や自動車などの日本的なものが、日本の文化や産業の歴史的な主流になってきています」