このブログを検索

2011年3月28日月曜日

今、すぐさま埋めるべき「穴」―――震災情報をめぐって

まず、柄谷行人や岡崎乾二郎が90年代、カントを援用して、しばしば指摘したもので、おそらくカントの読者ではあれば常識的なことなのかもしれない(岡崎乾二郎/古谷利裕 カントの総合判断をめぐって)。

科学は分析的判断のみを扱い、反省的判断は特殊な(偶発的な)ものとして排除される。そして、特殊を排除したまま分析的判断を無限に拡張することで、反省的判断まで包み込むことができるはずだという信仰を暗黙の前提としている。

今回の大地震、大津波を機縁とする原発事故で、あきらかになりつつあるのだが、そして科学者たちのご苦労を否定するつもりは毛頭ないのだが、分析的知性は偶発的な出来事に対応することに不得手である。

さらに言えば次のこともあらためて確認された。

要は専門家のもっている専門てほんとに狭くって、世界に数人〜数十人しか分かる人がいない。それでも業界外に位置づけを説明するために自分が数千人から数十万人のコミュニティに属しているように説明する。素人から期待される質問に答えようとするととたんに擬似専門家になる。(鈴木健氏ツイート3/16/11 8:31 PM

では、専門家の「集合知」というものが機能しているかといえば、総合判断の人材は彼らの集団からは現れにくいようだ。

さらにわれわれが一次情報と受け取っているものについても実はあるバイアスがかかっていることもわかった(それは「間違い」というレベルとはまた異なって領域でさえも)。情報はとき遅れに、そして、測定者、方法、機材などによって翻訳されて出てくるものなのだ。

東電様,プルトニウムの測定結果を発表される場合も,数値を並べるだけでなく「いつ,誰が,何処で,どんな方法で,どんな機材で測定し,どのくらいの誤差があると見積もったか」についても付記して下さるよう要望@hayano ryugo hayano


以下、おそらく総合判断の立場から、優れた問いかけをされている鈴木健氏の本日のツイート(3/28)のいくつかを列挙する。

◆東電を攻めるのではなくて、測定者を多重化して欲しい。経済産業省(産総研)や文部科学省(理研や大学など)がパラレルにばらばらのデータをだせばいいと思う。実際文科省のミニタリングカーは警察の測定データと混ざって発表されている。

◆ガンマ線分析は人間の認知システムと機械のハイブリッドなシステムだから、責任を追求して、逆に考えすぎると都合のいいデータになってしまう恐れがある。

◆人間は間違える。間違いが許される仕組みをつくるべき。理研や産総研など複数の研究所でデータを測定する並列多重化が必要。 / 測定の間違い許されない=枝野官房長官が東電批判 http://bit.ly/iiEzSw

◆責任追及圧力は別のところに歪みを作り出す。

―――などと書いている場合ではないのだが、専門家たちの「集合知」が機能するには、現在なにかが欠けている。その「穴」をすぐさま埋めなければならないはずだ。政治家もレトリックばかりなのだ……。

※追記(鈴木健氏ツイート)
リンク先ニュースもう消えているけど、枝野官房長官の全文読むと大分ニュアンスが違う。批判はしてない感じ。 / 測定の間違い許されない=枝野官房長官が東電批判